元同局プロデューサーが語る

フジテレビ凋落は「内輪ウケ・世間ズレ・自己保身」が原因か

2016年07月24日(日) 16時00分
〈週刊女性2016年8月2日号〉
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吉野嘉高(よしの・よしたか)●筑紫女学園大学現代社会学部教授。1962年、広島県生まれ。早稲田大学卒、中央大学大学院修了(法学修士)。'86年フジテレビジョン入社。情報番組、ニュース番組のディレクターやプロデューサー、社会部記者などを務め、2009年同社を退社し現職。著書に『フジテレビはなぜ凋落したのか』(新潮新書)など

 視聴率年間3冠王に輝くことが多かったフジテレビが、今では番組低視聴率やネットバッシングで、すっかり凋落。その原因はなんなのだろうか。

 フジテレビが視聴者から嫌われた理由について、吉野嘉高教授は「自分たちだけではしゃいでいるように見える、出演者や制作者の姿勢にいらだっているのでしょう」と指摘する。

「それはフジテレビの“内輪ウケ”に象徴されています。『めちゃ×2イケてるッ!』で岡村隆史扮するE村Pや、明松功プロデューサー本人が登場する『ガリタ食堂』などがその典型です。

 この笑いのパターンは古く、'81年に始まった『オレたちひょうきん族』のディレクターが“ひょうきんディレクターズ”として出演したり、レコードを出すなどしたのが始まりです。

 『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングにディレクターのブッチャー小林(愛称)が出演したり、石橋貴明による石田弘プロデューサー、通称“ダーイシ”のモノマネもそうです。これは仲間内の人間関係を尊ぶ、フジテレビの社風と密接に関連しています。

 新宿の河田町に旧社屋があった時代は会社全体の連帯感、一体感が視聴率3冠王の原動力となっていて、内輪で盛り上がることこそがエネルギーでした。そのため番組制作の根本原理として長期にわたって内輪ウケが信奉されてきました」

 ドラマでのキャスティングありきの制作スタイルなどにも、内輪ウケの原理が働いていると吉野教授。さらに番組制作側と世間の人々との感覚に「ズレ」が生じているという。

「'80年代、フジテレビは“庶民的”なテレビ局でした。当時の番組に共通する特徴は、反権威主義でリアルを追求するところ。当時、個性化が進んでいた若者たちは権威主義的に教員や親から考え方を押しつけられることに対し、鬱屈した感情をため込んでいたのでしょう。

 このような社会状況があったからこそ、フジテレビが番組で権威をぶち壊し、定型的な常識や社会規範を相対化させて見せたとき若い視聴者が共感を示したのではないかと考えています。日本社会がフジテレビを欲していたのです」

 しかし、お台場への移転などをきっかけに、フジテレビは“エリート”になってしまった。

「いつの間にかおごりが生じ、成功体験から抜け出せず、独善的な番組作りをするようになりました。

 それを省みることができなくなり、視聴者ではなく“番組制作者本位主義”、いわゆる内輪ウケの姿勢が根づいていたことも独善性に拍車をかけます。その結果、世間の変化に目を向け、耳を傾け、謙虚に寄り添おうという気持ちが薄くなり、感覚がズレてしまったのです」

■モノづくりよりも自己保身に心血

 しかし、フジテレビ社員に話を聞いたところ、変わる兆しは見えないと感じたという吉野教授。

「モノづくりをお互いに協力してやろうという相互扶助の精神よりも、自分だけは貧乏くじを引きたくないと、自己保身に必死になっている人が多いような気がします。

 仲間意識が強い社風の中で、社員たちは組織の中で“はずされる”のを極度に恐れるため、上司の顔色を窺いながら意向を忖度し、上司が望んでいるものを作る限り自分ははずされないと保身に走ってしまうのです。さらに、新社屋で組織がたこつぼ化してフローな状態ではなくなり、空気が滞っています」

 フジテレビが変わるには、経営陣が代わって新たな方向性を示すほかないのでは、と厳しい選択を迫る。

「フジテレビは'80年改革で視聴率3冠王を連発するようになったのですが、そのときに活躍したのはそれまでアウトサイダーだった人たち。

 復活のカギがあるとしたら、有能だけれど、いまフジテレビの外にいる人、あるいは有能だけれどフジテレビの中心ではなくて周縁にいる人、いわば外様的な人をうまく活用することだと思います」

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