「清宮は全打席歩かせるつもりでした」
そう打ち明けたのは、5回戦で早稲田実業に敗れた国士舘の捕手・松澤龍樹だ。
【写真】昨年夏の甲子園でも活躍した早実の主将・金子銀佑
「1打席目の初球は小手調べの意味合いもあってインコースを突きましたが(結果は死球)、あとは全部外のボールゾーンに構えていました。ピッチャーの深澤(史遠/2年)のボールはシュート回転するので、外にシュートするボール球を引っ掛けてくれたらいいな、という気持ちでいました」
高校2年の夏の時点で、清宮幸太郎は相手捕手にここまで言わせる打者に成長していた。そして驚くべきは、「全打席歩かせるつもり」のバッテリーに対して、清宮はライトスタンドにホームランを放り込んでいることだ。
「ホームランの打席は深澤のボールがいつもよりも指に掛かった分、シュート回転せずにスーッと入ってしまいました。でも、そのボールを見逃さないのはすごいし、想像以上のバッターでした。去年、東海大菅生の勝俣さん(翔貴/国際武道大)とも対戦しているんですけど、勝俣さんはまだ粗さがありましたが、清宮はミスショットをしない。自分の間(ま)で呼び込んで、確率の高いバッティングをすると思いました」(松澤)
今夏、清宮は強烈なマークに遭いながらも結果を残してきた。準々決勝までの4試合で10打数6安打3本塁打7打点、打率.600。四死球を7も記録しているところに、各校の警戒ぶりが透けて見える。
主将で1番・遊撃手の金子銀佑も打撃好調、清宮の後を打つ1年生強打者・野村大樹も2本塁打と高い能力を発揮した。課題と見られた投手陣も、エースナンバーをつけた吉村優が打たせて取る投球で開眼。2年連続甲子園出場に向けて、早実は快調にひた走っていた。
ところが7月23日、「波乱」は起きた。早実は西東京大会準々決勝の八王子戦に4対6で敗れたのだ。八王子は今夏のシード校で早実はノーシードではあるが、両校は昨夏も準々決勝で対戦し、その際は早実が11対5で完勝している。
早実の和泉実監督が試合後、不思議そうな顔でつぶやいた。
「金子が言っていたんですよ。『スローボールが打ちにくい』って。チェンジアップもあるんだけど、スピードを殺したスローボール。インコースを厳しいボールで攻められた上で、あのスローボールを投げられると、なかなか合わなかったですね」
八王子の勝利の立役者になったのは、9回途中まで早実の強打線を粘り強く抑えた2年生左腕・早乙女大輝だった。身長171センチ、体重69キロ。ストレートのスピードはほとんど120キロ台。安藤徳明監督ですら「まさか早乙女が2年の時点でエースになるとは想像もしていなかった」と語るほど、一見すると平凡な投手だ。なぜ、そんな投手が早実打線を抑えることができたのだろうか。
「スイングスピードが速いな……」
素振りをしながら打席に向かってくる清宮を見て、八王子の捕手・細野悠は内心おののいていた。細野は試合前から清宮のことを「どんなボールにも対応してくるバッター」と見ていたという。
すでに初回の時点で八王子の「プラン」は崩れていた。清宮の前に「1番の金子を出さないようにしよう」と考えていた八王子バッテリーだったが、金子にスプリットを捉えられ、センター前ヒットで出塁を許していたのだ。
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