「ポケモンGOで保護犬の散歩が大人気」の嘘と本当
- 2016/07/24
- 21:15
ポケモンGO、日本でも大人気ですね。
話題が大きければ大きいほどそれだけ不確かな情報も出回るわけで、案の定ポケモンGOに関する誤情報も枚挙にいとまが無い。これだけ一度に色んな誤情報が出現するのは災害か五輪・W杯以来だろうか。
これから日本でも色々な騒動の話が広がってくるのだろうが、ゲームのリリースが海外の方が先だった事もあり、誤情報も海外から輸入されるパターンが多い。今回はそんな海外発の話題から一つ。
話が拡散されるきっかけとなったのは海外のあるFacebookユーザーの投稿(削除済み)。そのスクリーンショットが日本のTwitterなどでも広がり、一部は正しい情報が正しいまま伝わり、一部は間違った情報が伝わり、また一部はFacebook投稿の間違っていたところが修正され、また一部は誤訳され…と何だかしっちゃかめっちゃかになっているのだが、幸いにも大元の保護施設が自らFacebookを更新したりメディアの取材に答えたりと情報発信に積極的なので、事実は一次情報として確認できる。何が正しくて何が間違いなのか、一つずつ見てみよう。
「ポケモンGOで遊びながら犬の散歩ができるように保護施設が犬を貸し出した」→本当
ことの顛末は以下の記事等が詳しい。
・This Dog's Life - Genius! Animal Shelter Gets Pokemon Go Players to Walk Its Adoptable Dogs
・Upworthy - How Pokemon Go is helping this shelter get its dogs walked
・BuzzFeed Animals - A Local Animal Shelter Is Letting Pokémon Go Fanatics Volunteer To Walk Dogs
・Clear the Shelters - 'Pokemon Go' Players Walk Shelter Dogs in Indiana
・The Star Press - More than 150 people have shown up for 'Pokemon Go' dog walks
・snopes.com - Pokemon Go Program Clears Shelter of Dogs Awaiting Adoption
現地時間12日朝、米インディアナ州のマンシー・アニマル・センターという動物保護施設(注1)がFacebookで「ポケモンを捕りながら保護犬を散歩させよう!」とイラスト付きで呼びかけたところ大反響。投稿は話題を呼び、投稿の1時間後には施設に行列ができ始め(BuzzFeedより)、中には車で2時間かけてやってきた人もいたという(Upworthyより)。その後も1日数十人の希望者が訪れ大盛況の模様だ(注2)。
日本でこの件が話題になったのは20日くらいで結構遅い。
(注1)日本では「保健所」と訳されていることが多いが、保護施設という方が無難だと思う。保健所は動物以外にも公衆衛生に関わる業務全般を取り扱う公的施設。保護施設の方は明確な定義があるわけではないが、動物関連専門で民間施設も含むというイメージがある。マンシー・アニマル・センターも市の施設だが、業務は動物専門。保護や里親探し等が主な業務内容だが、殺処分を担当しているかどうかはHPの情報からは分からない。
(注2)正確な人数はどうも把握しづらい。This Dog's Life13日の記事に「今日既に50人」、Upworthyの15日記事には取材日不明だが「今日は70人以上来た」とある。Clear the Shelters記事では「12~17日の間で250人以上」、the Star Pressの22日記事は「(これまでに)150人以上」…なんだかメチャクチャだが、施設を訪れた人と実際に犬を散歩させた人の数の差かもしれない。後述のように複数人グループの場合もある。
「そのまま犬を引き取ることにした人もいた」→本当
この企画をきっかけに犬を引き取って里親になったという報告が15日には2件、19日にも1件されている。Snopesの取材によると21日時点で引き取られたのは6頭だそうだ(これが全部ポケモン企画の成果かどうかは不明)。
「施設から犬がいなくなった」→嘘
ポケモン企画が話題になった後でも施設のFacebookでは里親募集の呼びかけが続いている。The Star Pressの記事によれば引き取り可能な犬は75頭もいるといい、6頭減ったくらいではまだまだいなくなることはない。
「犬が足りないので予約待ちで別の施設から借りている」→嘘
75頭のところに1日数巡人が来るとなると確かにいっぱいいっぱいになりそうだが、そこはうまくやっている模様。Upworthyの記述によると、複数人のグループで来た場合他の人がポケモンを捕まえている間1人は犬の面倒を見る役をするという犬の安全により配慮した方式を新たに導入し、人手が無駄にならないようにしているようだ。
他の施設の人たちも「うちもやってみようか」みたいに言ってるという話は書いてあるが、犬を他の施設から借りたという噂の信頼できるソースは無い。
「散歩料で施設はガッポガッポ」→嘘
施設は散歩にあたって料金は取っていないと明確に否定している。元々施設の呼びかけやHPには料金のことは一切書いておらず、「1時間に5ドル」などという噂がどこから出てきたのか分からない。
「引き取り料が無料になった」→ヒョウタンから駒?
元々の引き取り料は犬が100ドル猫が65ドル。しかしあたかも今回の大反響に呼応するかのように、施設は引き取り料の割引や無料キャンペーンを実際に始めている。
14日には犬50ドル猫25ドルという割引キャンペーンの延長(22日まで)が告知された。しかし5日にも同様の告知があるので、どうやら今回の騒動とは関係無く以前から決まっていたことらしい。
21日には23日のイベントで引き取り料が本当に無料になる(登録料別途10ドル)ことを告知。これも全米で行われる「施設を空にしよう」の日に合わせたものなのでタイミングは全くの偶然なのだが、「引き取り無料」というのは噂に触発された可能性が無きにしもあらず。毎年やっていることで騒動とは関係無いという可能性もあるが、施設が例年この日にどういう企画をやっているのかは詳しく分からなかった。
いずれにしても、噂が広がった時点では引き取り料は無料ではなかったので不正確。また上述の通り散歩料は存在しないのだから、今回の企画の稼ぎが元で無料キャンペーンが行われるわけでもない。
とはいえ施設にとっては今こそ犬の里親を増やす絶好のチャンスと思っていることだろう。
「ポケモンで遊んでいるのを犬でカモフラージュするため」→少なくとも施設側はそういう意図ではない
ゲームで遊ぶために犬を利用することを不快に思う人もいるかもしれないが、施設はあくまで犬の世話を第一とし安全に注意するよう呼びかけている。複数人で犬を連れることにした上記の方式変更もその一環だ。
インタビューによれば企画のきっかけは6歳の娘と犬の散歩をしながらポケモンGOで遊んでいた施設創始者のひらめきからだという。犬の運動不足解消のため街中を歩き回っているポケモンGOプレイヤーたちを活用できないかと思ったそうだ。なおこの施設では普段から犬の散歩ボランティアを募集している。
だが施設側が犬のためというつもりでも、ボランティア側が必ずしもカモフラージュの意図が無いかどうかは判断できない。Snopesは珍しくずいぶん主観的な書き方で「公共の場でスマートフォンを使うのは別に恥ずかしいことではないし、ポケモンGOをやっているかどうか傍目では分からない」と反論している。だがポケモンGOのために外をうろうろしている人は見る人から見れば結構分かる(注3)というのは知っての通りだし、重要なのはプレイヤー自身の「周りにポケモンやってるのがバレてるんじゃないか」あるいは「不審がられてるんじゃないか」という不安であって、実際分かるかどうかの問題ではない。本当にカモフラージュ目的の人がいてもおかしくはないと思う。
まあカモフラージュ目的だろうがしない善よりする偽善というやつで、施設としては散歩を手伝ってもらえるだけでも助かるしそこから犬に愛着を持って里親になってくれる人がいたら万々歳という感じだろう。
(注3)でないと「そこら中にいるポケモンGOプレイヤーたちを見て思いついた」という上の話と矛盾する。
ところでこのマンシー・アニマル・センター周辺はストリートビューで見る限り芝生が多くて見通しが良く、道路の交通量もさほど多くなさそうである。日本の混みいった街中で犬を連れながらポケモンGOをやりたい人はくれぐれも人と犬の安全に気を付けて、施設の対策を参考に複数人で役割分担しながら歩くなどしてみてはどうだろうか。
話題が大きければ大きいほどそれだけ不確かな情報も出回るわけで、案の定ポケモンGOに関する誤情報も枚挙にいとまが無い。これだけ一度に色んな誤情報が出現するのは災害か五輪・W杯以来だろうか。
これから日本でも色々な騒動の話が広がってくるのだろうが、ゲームのリリースが海外の方が先だった事もあり、誤情報も海外から輸入されるパターンが多い。今回はそんな海外発の話題から一つ。
「保護施設がポケモンGO用に犬を貸し出し人気に」という話は事実ですが一部誤って伝えられてる部分もあるので注意
— ネット上の情報検証まとめ (@jishin_dema) 2016年7月21日
・「引き取り続出で施設の犬がいなくなった」→引き取りは数件で犬はまだいる
・「散歩料収入で引き取りが無料になった」→散歩料は無し。引き取りは割引中だが無料ではない(続く
続き)「犬が足りず別の施設から借りている」→犬を複数人で連れられるようシステムを変えた程人気なようだが、他施設から借り入れの話は確認できず真偽不明
— ネット上の情報検証まとめ (@jishin_dema) 2016年7月21日
参照→ https://t.co/tQgsyedor3 https://t.co/Fsmj4i0Noj
「米で保護施設がポケモンGO用に犬を貸し出し人気に」という話は事実ですが、「引き取り続出で施設から犬がいなくなった」「散歩用に他施設の犬を借りている」「散歩料を取っている」などの話は誤りです https://t.co/QFET7wKic7
— ネット上の情報検証まとめ (@jishin_dema) 2016年7月22日
なお「犬の引き取り料が無料になった」という話は噂が広まった時点では(割引をするというのはあったものの)誤りだったが、近日実際に無料キャンペーンをやるそうです(別途登録料は必要) https://t.co/QFET7wKic7 https://t.co/trR8zoPAmr
— ネット上の情報検証まとめ (@jishin_dema) 2016年7月22日
話が拡散されるきっかけとなったのは海外のあるFacebookユーザーの投稿(削除済み)。そのスクリーンショットが日本のTwitterなどでも広がり、一部は正しい情報が正しいまま伝わり、一部は間違った情報が伝わり、また一部はFacebook投稿の間違っていたところが修正され、また一部は誤訳され…と何だかしっちゃかめっちゃかになっているのだが、幸いにも大元の保護施設が自らFacebookを更新したりメディアの取材に答えたりと情報発信に積極的なので、事実は一次情報として確認できる。何が正しくて何が間違いなのか、一つずつ見てみよう。
「ポケモンGOで遊びながら犬の散歩ができるように保護施設が犬を貸し出した」→本当
ことの顛末は以下の記事等が詳しい。
・This Dog's Life - Genius! Animal Shelter Gets Pokemon Go Players to Walk Its Adoptable Dogs
・Upworthy - How Pokemon Go is helping this shelter get its dogs walked
・BuzzFeed Animals - A Local Animal Shelter Is Letting Pokémon Go Fanatics Volunteer To Walk Dogs
・Clear the Shelters - 'Pokemon Go' Players Walk Shelter Dogs in Indiana
・The Star Press - More than 150 people have shown up for 'Pokemon Go' dog walks
・snopes.com - Pokemon Go Program Clears Shelter of Dogs Awaiting Adoption
現地時間12日朝、米インディアナ州のマンシー・アニマル・センターという動物保護施設(注1)がFacebookで「ポケモンを捕りながら保護犬を散歩させよう!」とイラスト付きで呼びかけたところ大反響。投稿は話題を呼び、投稿の1時間後には施設に行列ができ始め(BuzzFeedより)、中には車で2時間かけてやってきた人もいたという(Upworthyより)。その後も1日数十人の希望者が訪れ大盛況の模様だ(注2)。
日本でこの件が話題になったのは20日くらいで結構遅い。
(注1)日本では「保健所」と訳されていることが多いが、保護施設という方が無難だと思う。保健所は動物以外にも公衆衛生に関わる業務全般を取り扱う公的施設。保護施設の方は明確な定義があるわけではないが、動物関連専門で民間施設も含むというイメージがある。マンシー・アニマル・センターも市の施設だが、業務は動物専門。保護や里親探し等が主な業務内容だが、殺処分を担当しているかどうかはHPの情報からは分からない。
(注2)正確な人数はどうも把握しづらい。This Dog's Life13日の記事に「今日既に50人」、Upworthyの15日記事には取材日不明だが「今日は70人以上来た」とある。Clear the Shelters記事では「12~17日の間で250人以上」、the Star Pressの22日記事は「(これまでに)150人以上」…なんだかメチャクチャだが、施設を訪れた人と実際に犬を散歩させた人の数の差かもしれない。後述のように複数人グループの場合もある。
「そのまま犬を引き取ることにした人もいた」→本当
この企画をきっかけに犬を引き取って里親になったという報告が15日には2件、19日にも1件されている。Snopesの取材によると21日時点で引き取られたのは6頭だそうだ(これが全部ポケモン企画の成果かどうかは不明)。
「施設から犬がいなくなった」→嘘
ポケモン企画が話題になった後でも施設のFacebookでは里親募集の呼びかけが続いている。The Star Pressの記事によれば引き取り可能な犬は75頭もいるといい、6頭減ったくらいではまだまだいなくなることはない。
「犬が足りないので予約待ちで別の施設から借りている」→嘘
75頭のところに1日数巡人が来るとなると確かにいっぱいいっぱいになりそうだが、そこはうまくやっている模様。Upworthyの記述によると、複数人のグループで来た場合他の人がポケモンを捕まえている間1人は犬の面倒を見る役をするという犬の安全により配慮した方式を新たに導入し、人手が無駄にならないようにしているようだ。
他の施設の人たちも「うちもやってみようか」みたいに言ってるという話は書いてあるが、犬を他の施設から借りたという噂の信頼できるソースは無い。
「散歩料で施設はガッポガッポ」→嘘
施設は散歩にあたって料金は取っていないと明確に否定している。元々施設の呼びかけやHPには料金のことは一切書いておらず、「1時間に5ドル」などという噂がどこから出てきたのか分からない。
「引き取り料が無料になった」→ヒョウタンから駒?
元々の引き取り料は犬が100ドル猫が65ドル。しかしあたかも今回の大反響に呼応するかのように、施設は引き取り料の割引や無料キャンペーンを実際に始めている。
14日には犬50ドル猫25ドルという割引キャンペーンの延長(22日まで)が告知された。しかし5日にも同様の告知があるので、どうやら今回の騒動とは関係無く以前から決まっていたことらしい。
21日には23日のイベントで引き取り料が本当に無料になる(登録料別途10ドル)ことを告知。これも全米で行われる「施設を空にしよう」の日に合わせたものなのでタイミングは全くの偶然なのだが、「引き取り無料」というのは噂に触発された可能性が無きにしもあらず。毎年やっていることで騒動とは関係無いという可能性もあるが、施設が例年この日にどういう企画をやっているのかは詳しく分からなかった。
いずれにしても、噂が広がった時点では引き取り料は無料ではなかったので不正確。また上述の通り散歩料は存在しないのだから、今回の企画の稼ぎが元で無料キャンペーンが行われるわけでもない。
とはいえ施設にとっては今こそ犬の里親を増やす絶好のチャンスと思っていることだろう。
「ポケモンで遊んでいるのを犬でカモフラージュするため」→少なくとも施設側はそういう意図ではない
ゲームで遊ぶために犬を利用することを不快に思う人もいるかもしれないが、施設はあくまで犬の世話を第一とし安全に注意するよう呼びかけている。複数人で犬を連れることにした上記の方式変更もその一環だ。
インタビューによれば企画のきっかけは6歳の娘と犬の散歩をしながらポケモンGOで遊んでいた施設創始者のひらめきからだという。犬の運動不足解消のため街中を歩き回っているポケモンGOプレイヤーたちを活用できないかと思ったそうだ。なおこの施設では普段から犬の散歩ボランティアを募集している。
だが施設側が犬のためというつもりでも、ボランティア側が必ずしもカモフラージュの意図が無いかどうかは判断できない。Snopesは珍しくずいぶん主観的な書き方で「公共の場でスマートフォンを使うのは別に恥ずかしいことではないし、ポケモンGOをやっているかどうか傍目では分からない」と反論している。だがポケモンGOのために外をうろうろしている人は見る人から見れば結構分かる(注3)というのは知っての通りだし、重要なのはプレイヤー自身の「周りにポケモンやってるのがバレてるんじゃないか」あるいは「不審がられてるんじゃないか」という不安であって、実際分かるかどうかの問題ではない。本当にカモフラージュ目的の人がいてもおかしくはないと思う。
まあカモフラージュ目的だろうがしない善よりする偽善というやつで、施設としては散歩を手伝ってもらえるだけでも助かるしそこから犬に愛着を持って里親になってくれる人がいたら万々歳という感じだろう。
(注3)でないと「そこら中にいるポケモンGOプレイヤーたちを見て思いついた」という上の話と矛盾する。
ところでこのマンシー・アニマル・センター周辺はストリートビューで見る限り芝生が多くて見通しが良く、道路の交通量もさほど多くなさそうである。日本の混みいった街中で犬を連れながらポケモンGOをやりたい人はくれぐれも人と犬の安全に気を付けて、施設の対策を参考に複数人で役割分担しながら歩くなどしてみてはどうだろうか。
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