「ちゃんと」文章を書くのは難しいものです。
書くことや書きたいことはあっても、なかなかまとまった文章は書き上げられません。あるいは、書きたいことがありすぎるがゆえに、なかなか書けないという逆説的な状況も想像できます。なぜなら、「文章を書くこと」は、認知的な操作だからです。ようは頭の中で行われる作業なのです。
たとえば、こんな自問作業が脳内では行われているでしょう。
- 主語はどうしようか
- 述語はこれでいいか
- 他に適切な副詞はないだろうか
- どのような順番で書いていけばいいだろうか
- どのような切り口で表現すればいいだろうか
- 他に関連する要素はないだろうか
- その関連する要素をどれだけ使えばいいだろうか
こうしたことが、文や節や章のレベルで、つまりフラクタルに広がっていきます。逆に言えば、一つの文章を生み出す際には、こういった要素について「考えることができる」のです。もちろん、それらを同時に考えれば脳がパンクすることは間違いありません。規模の大きい文章ならなおさらでしょう。
規模の大きい文章は、材料が多いので組み合わせの数も多く、語り口の選択肢もさまざまあって、先ほどの作業はより混乱の度合いを強めます。よほど鍛錬を積んだライターか、先天的にそうした作業に適したニューロンネットワークを持っている人でなければ、難しい作業でしょう。
では、「ちゃんと」書かなければどうでしょうか。
単に、思いつくままに文章を書くのです。支離滅裂上等、文法のみだれは無視、流れが悪かろうが、調子が整っていなかろうが一切気にしません。ともかく、頭の中の言葉を外に出す。そして、その後整える。こうすることで、一つの絶対的な効果が得られます。
それが「プロセスの分離」です。
どちらにせよ、先ほど列挙した認知的操作は必ず行わなければいけません。「ちゃんと」した文章を書くためには必須な作業です。しかし、それを「一気に」(あるいは同時に)行う必要はないのです。プロセスを分解し、一回当たりの作業の負荷を下げたって構わないのです。
そこで役立つのがアウトライナーです。
具体例
簡単な実例を見てみましょう。
ここまで書いてきた文章の「発展段階」をアウトライナー上でご覧下さい。
1st
ともかく、ぱっと「思いついたこと」を書き出しました。規模が小さいので、それなりに流れみたいなものはありますが、まだまだ「ちゃんと」にはほど遠い状況です。
2nd
項目の並べ替えと、項目の補強を行いました。とはいえ、まだ文章とは呼べません。ここから肉付けを強めていきます。
3rd
箇条書き風だったものを、文章っぽくリライトしています。さらに、書きながら思いついたこと・肉付けできることを追記していきます。ずいぶん文章っぽくなってきました。
4th
さらに文章の整形を進めました。アップする先がブログなので、HTMLを意識したタグ付けもしながら、細かい表現を調整しています。
5th
さらに細かい言い回しの調整で、フィニッシュです。「あと2分以内に原稿をしないと罰金」と言われてしまった場合に、提出できるレベルにはなりました。
※実際には、さらにいくつかリライトしたので、当記事の冒頭は5thとはまた微妙に変わっています。
とりあえず、「ちゃんと」した文章の完成です。
さいごに
以上のようなプロセスの分離は、パソコンで文章を書き慣れた人ならば、ごく普通に行っていることでしょう。逆に、「原稿用紙に万年筆で」タイプの人であれば、不自然に感じられるかもしれません。
このような書き方は、ワープロというツールが私たちに与えてくれたものです。認知的な作業を同時に行わなくても不便がないように、ツールが補助してくれているのです。アウトライナーは、そのワープロの恩恵を、さらに強化する形で実装してくれています(とはいえ、苦労がゼロになることはありません)。
ちなみに、こうして分離したプロセスは、複数の実行日に分けることもできます。一日目はまずラフに書き出して、二日目はそこに手を入れる、といったことも可能なのです。それはそれで、一気に書き上げるやり方とは違った持ち味の文章が生まれてくることもあるでしょう。
なんにせよ、「頭から、綺麗に、順番通り」文章を書き上げる必要はどこにもありません。それは原稿用紙ライティングでは基本だったのかもしれませんが、ワープロライティングや、アウトライン・プロセッシングでは、むしろ例外的な書き方となります。
「ちゃんと」は後で整える。これがワープロ・ライティングの極意です。
▼参考文献:
今回の記事は、アウトライナーを使った執筆の、非常に簡単な、というか一番基礎的なやり方です。もう少し射程の広い「実際例」を見たい場合は、本書を参考にしてください。
» アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~[Kindle版]
» アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~
▼今週の一冊:
「知的生産の古典を振り返ってみよう~」のコーナーです(違う)。
現代では「今更」感あることですが、ワープロというのは文章書きにとって偉大な発明なのです。いや、「文章書き」ではない文章を書く人にとって、と表現するのが良いのかもしれません。モダン・ライティングの先鞭が本書にはあります。
Follow @rashita2
この原稿は7月22日の午前中に書いているのですが、ちょうどそのころ「ポケモンGO」の国内ダウンロードが始まっていて、極めて悶絶しておりました。書き上げたら、早速ダウンロードしないと。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由
8月6日(土) 行動記録から価値を引き出すためのレビューの手順
『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』(佐々木正悟・著)の内容をベースに、タスクシュート時間術、すなわち仕事を予定どおりに終わらせるための時間管理の考え方とツールを駆使した具体的な方法をお伝えします。
今回のテーマは、
-行動記録から価値を引き出すためのレビューの手順
です。
週に一度、直近一週間をふり返り、課題を見つけて改善していくという週単位のレビューがあります。
でも、もっと重要かつ即効性が高いのが毎日ふり返り、見つけた課題を翌日から即改善していく
日次の記録とレビューの習慣です。
日々の行動記録を残していても、これをふり返る(=レビューする)ことが
なければ、せっかく残した記録が活かされることはありません。
記録には明日以降に活かせる改善のヒントが詰まっていますから、
これをそのままにしておくのはもったいないです。
そこで、今回は日々の行動記録の残し方と、記録から価値を引き出すための
レビューの手順を解説します。
「もっとうまく時間を使えるはずなのに」とお考えのかたはぜひご参加ください。
好評いただいている個別相談の時間もご用意していますので、知識としては理解できているとは思うものの、なかなか実践に結びつけられず苦戦している、という方は、ぜひこの機会にブースターとしてご活用ください。
本日時点で、残り3席ですので、ご検討中の方はお早めに。
» 仕事を予定どおりに終わらせたい人のための「タスクカフェ」@渋谷
PR
イチオシ本
» 続きを読む週間アクセスランキング
» シゴタノ!を「Feedly」で購読する
» シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌のトップへ戻る