子どもの内面が評価できるのか。多様な価値観を認める教科書が生まれるのか。

 いずれも疑問をぬぐえない。「道徳」はやはり教科にすべきではない。

 文部科学省は、小中学校の道徳を2018年度以降に教科化する方針だ。同省の専門家会議が、指導方法や評価のあり方について報告をまとめた。

 昨年、学習指導要領を変えて教える内容を定め、教科書検定の基準を決めたのに続くものだ。これで「特別の教科」の枠組みが出そろったことになる。

 道徳の教科化は大津市のいじめ事件を受け、政府の教育再生実行会議が子どもの規範意識などを育てるために提言した。

 これに対し文科省は、読み物の登場人物の心情理解ばかりの「読み物道徳」から、「考え、議論する道徳」への転換を目指すという。

 ものごとを多面的、多角的に考え、話し合うことは大切だ。

 専門家会議の報告は授業法としてグループで話し合い、役割演技をして考える方法などを挙げた。だが、そのために教科という形が必須だとは思えない。

 評価について専門家会議は子ども同士を比べず、その子がいかに成長したかを数値ではなく記述式で表現し、入試の合否判定には使わない方針を示した。

 具体的な方法として感想文をファイルする、授業中の発言を集めるなどの例を挙げている。

 発言や書くことが苦手な子の場合は、話に聴き入り、考えを深めようとする姿勢に注目することが重要だとした。

 心の値踏みになりかねない危うさに一定の考慮をしたといえる。だが評価の難しさは記述式でも変わらない。内面を知るには外に現れた言葉や態度を見るしかない。しかも学級全員が対象だ。どこまで可能だろうか。

 その大変さを見越したかのように、評価の記述の文例集がすでに出版されている。

 教科化によって、教材は検定教科書を使うことになる。

 文科省は2年前に検定ルールを変えた。「国を愛する態度」などを盛り込んだ教育基本法の目標に照らし重大な欠陥があると判断されれば不合格になる。

 運用次第では、愛国心を教え軍国主義教育を担った戦前の国定教科書に近づきかねない。

 道徳が70年以上教科にならなかったのは、教科書を使い、評価することが心のあり方への介入となる懸念があったからだ。

 その慎重な配慮を捨て、なぜ今、子どもの心を評価せねばならないのか。来春に公表される検定結果にも目をこらしたい。