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トランプ氏の米国第一主義を憂慮する

2016/7/23付
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 どこまでが本音で、どこからがはったりなのかが相変わらずよくわからない。米共和党の大統領候補に正式に決まった実業家ドナルド・トランプ氏の指名受諾演説を聞いた印象である。当選すれば日本にも多大な影響を及ぼす人物だ。今後の言動を一段と注視する必要がある。

 4日間にわたる共和党大会を通してみると、最終的には現実路線に落ち着くのかと思わせる場面もあった。

 副大統領候補に指名したインディアナ州のマイク・ペンス知事は連邦議会下院議員を12年間務めた。トランプ氏が批判してきた既成政治の体現者だが、経験は豊富である。勝つためにはそれなりの安定感があった方がよいとの判断だろう。

 採択した政策綱領も懸念されたほど極端ではなかった。トランプ氏が広言していた「イスラム教徒の入国禁止」は「入国審査の厳格化」に薄められた。環太平洋経済連携協定(TPP)には触れず、「重要な貿易協定は急ぐべきでない」としか書かなかった。

 もっとも本人は「TPPは米製造業を破壊する。決して署名しない」「我々が守っている国々には相応の負担を求める」といった米国第一主義の主張を繰り返した。選挙戦で人気取りの発言が出るのは珍しくないが、トランプ氏は本気で言っている面がかなりある。

 トランプ夫人の演説盗用騒動からは、陣営が少数の不慣れなスタッフで運営されていることがうかがえる。多くの党幹部の欠席、議事進行の混乱。民主党のヒラリー・クリントン前国務長官とぶつかる11月の本選挙への道は平たんではなかろう。米国でもクリントン氏優位との見方が多い。

 だが、これまでの対外政策を根本から覆しかねない人物がホワイトハウスへあと一歩の地位まで来た事実は軽んじるべきではない。

 「日本は米国の軍事力にただ乗りしている」。こうした主張を変えない政治家に多くの支持が集まったのが現実だ。トランプ氏が当選しようとしまいと、現状に不満を抱く人々の矛先が日本を含む海外に向く可能性も否定できない。

 トランプ氏をポピュリストと一刀両断するのは簡単だ。だが共和党が弱体化し、米政治が一段と混乱に陥るかもしれない。自国さえよければよいという風潮が世界に広がるのも心配だ。日本がそうなっていないかにも気をつけたい。

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