俺は北海道の田舎に生まれ育ったが、それでもまだ駅前(地元では街と呼ぶ)に近いほうの住宅街に住んでいたので、娯楽には困らなかった。
映画館もゲーセンも大規模な本屋もあるし、服を買うのも困らないし、チョイスの良い古本屋もあるので欲しい絶版本もすぐ手に入る。レトロゲームが好きで古いファミコンを買うのも、古本屋でどうにかなった。年に何回かは東京からお笑い芸人やバンドが来てライブもある。同人イベントもあるし、アニメショップもある。
友達がいなくて一人で趣味に没頭するしかない奴でも、一応なに不自由なく暮らせた。
東京でいう、八王子や町田に住んでる感覚だ。(もちろん北海道の田舎なのでそれらの街より小さいが。)
最近高校時代の友人が自転車にハマっているというので、特に目的もなく適当に自転車でブラブラしようと誘われた。同じ高校だったが、校舎が別だったので校内で会うことはなく、放課後によく一緒に遊んだやつだ。
大人になってからは車移動しかしなくなっていたので、自転車で車じゃ通らない道を走るのは新鮮だった。
すると友人が「あの山の麓を目指そう」と言う。遥か遠くに山が見えるのだが、とても自転車で行ける距離ではない。しかし暇なのでついていくことにした。
住宅街が無くなり、やがて畑しかなくなり、たまにコンビニがポツポツあるくらいで、建物は農家の家くらい。たまに牛もいるぞ。「たいひあります」という看板がやたら多くなり、畑や牧場も無くなると「不法投棄は監視されています」というノボリだらけになった。道路脇にはタイヤやブラウン管テレビ、便器などが転がっている。「監視されています」って、どこにもカメラは見当たらない。
ついにコンビニすら見当たらなくなった。畑も牧場もないが、たまに一軒家は見かける。こんな何もないところに住もうと何故思うのか、謎である。
三時間くらい自転車を漕いだだろうか。途中、急勾配が連続して自転車には辛かったが、山が目の前になった。街にいたときは、遥か遠くにあって行こうとも思わなかった山が目の前。
その麓には、家が何軒かある。そのうちの一軒が友人の高校の同じクラスの奴の家だという。
ドアのチャイムを押すと、同じクラスだったという彼が出てきて、家のなかに招いてくれた。
家は平成以降に建てたであろう、割と新しい綺麗な家だ。
「ここまで自転車できたの?大変だったろう」と冷えたポカリスエットを頂いた。ここまで来るのに汗だくだ。車に慣れてしまい、社会人になってからは運動なんて一切していないので、自転車三時間は本当に堪えた。キンキンに冷えたポカリスエットが沁みた。
高校時代は片道三時間かけて高校まで行っていた。彼は慣れていたが、街側に住む連中は自転車なんて精々乗って一時間である。
高校時代に一度クラスの連中が彼の家まで自転車で行こうとしたらしいが、あまりの遠さに断念したという。
あんな急勾配を繰り返しながら、毎日片道三時間かけて自転車で高校まで通っていたのである。頭が下がる思い。
冬は雪が積もるのでもちろん親の車で送り迎えだった。バス停は一応近くにあるが、一日に二回しか来ないので使い物にならないという。
一応、小中学校は歩いていける距離にあるが、そんな山の麓の何もないところの小学校なんて、同級生は五人しかいない小さい学校だったという。
そんなコンビニ一軒すらない田舎で子供が暮らすといっても、娯楽がなにもない。ゲーセンも映画館もなにもないので、家で少年ジャンプを読むかゲームをするかしか無いという。
そんなものはもちろんすぐ飽きる。結局、娯楽がない田舎で育つと、セックスしかやることがないという。
遊びに行こうにも、街に行くには自転車で片道三時間は小学生には無理だ。コンビニ一軒すらない山にいるしかないのだ。公園もない。結局は、セックスしか娯楽がない。
彼の童貞喪失は小4。同級生の女子とだそう。一度セックスを覚えてからは、同級生の女子全員とやり、5年、6年の女子全員とセックスしたらしい。
つまり、小学校中学年になれば全員穴兄弟・棒姉妹になるという。小学校、中学校時代は毎日セックスした。
この話を他の男にすると、みんな羨ましがるという。でも彼は「田舎だし、仕方ないことであって、決して自分がモテる訳ではない」と謙遜する。
俺を自転車でここまで連れてきた友人も死ぬほど羨ましがっていたが、俺は羨ましいどころか聞いていて辛かった。辛くしかなかった。
もし俺がそんな学校に通わなければならないとしたら、女子は誰も俺の相手をしてくれずに童貞のままだろう。
小学校低学年のときは仲の良かった男子も、中学年にもなればセックスに夢中で俺の相手はしなくなるだろう。
津山30人殺しだって、村の夜這いシステムから除害されて起きた事件だろう。もし俺がそんな田舎に生まれていたら、完全に(殺人まではしないけど
)そうなっていた。
街側の学校で育ったから、女子から一切相手にされず女友達が一人もいないモテない俺でも、男友達はどうにか作れたが、本当に山に家が無くて良かった…と戦慄しながら彼の家を出た。
ああ、そうか。また三時間かけて帰らなきゃならないのか…
すごく素朴な疑問なんだけど、その子たち避妊どうしてたんだろう。 店も何もなかったらゴム買えないだろうし、そんなやりまくってたら10代前半で子どもできる子がたくさんいそうだ...