時計塔の最臭兵器   作:新グロモント
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ふぅ、こういう話を執筆すると心が清らかになるのは作者だけだろうか。


12:セイバー討伐(前編)

 監視班の情報によると心臓という名の聖杯を手にしたのはアサシンだ。セイバーとバーサーカーの一騎打ちの最中、漁夫の利で持ち帰ったそうだ。だがバーサーカーは原作通りセイバーに敗れてしまった。やはりランサーの呪いが消えてしまったのが敗因だろうね。

 だがバーサーカーとて宝具を惜しみなく使ったのだ。対セイバー戦においてはアロンダイトは正にアンチカード同然だ。バーサーカーが敗北したとは言え、それなりの手傷を負わせたに違いない。

「それにしても『全て遠き理想郷(エクスカリバーの鞘)』というのは素晴らしいね。ホムンクルスの心臓すら再生するとは。ふむ、意識が覚醒するまで些か時間が掛かりそうだな」

「なんですかこの女の敵みたいな体型をしたホムンクルスは!? このミレイが入念に調べあげます、旦那様!!」

 どうしてこんな子に育ってしまったのだろう。可愛ければ女でもいいとか……育ての親として悲しい限りだ。まぁ、人並み外れた美女だというのは認めよう。

「やめろ、ミレイ。それはクライアントであるアメリカ合衆国のお偉いさんへの貢ぎ物だ。代わりが欲しいなら手配してやらんこともないが……」

 当然、このホムンクルスを調べ上げる過程でアメリカ合衆国もホムンクルスを製造するだろう。その際に廃棄個体を回していただけるように手配する事は可能だ。それだけの成果を上げているのだからね。

「ふっ……冗談ですよ。このミレイ、旦那様以外に肌を許しませんから」

 なかなか忠義心溢れる言葉ではないか……但しホムンクルスの胸を揉みながら言われても説得力が欠けるがね。おっと、時間だ。

 私達が拠点にしている場所に二人の魔術師がやってきた。エリア51に匿われている封印指定の魔術師である。当然、魔術師としての力量は私より上。だがアメリカ合衆国の犬として働く私同様にお仕事をきっちりこなす律儀な人達だ。云わば同僚とも言えよう。

「積荷の回収に来た。流石はアインツベルン謹製のホムンクルスだな。これほどの素体……さぞ役に立つだろう。ここからは我々が引き受ける。エリア51で聖杯戦争の話が聞けるのを楽しみにしているぞ」

「エリア51の司令官より伝言だ。予定通り衛宮切嗣の国際指名手配が完了した。本日の午後3時のニュース速報で全国ネットに顔が公開される。依頼通り衛宮切嗣を捕らえた者に300万ドルの懸賞金も同時にかけられる」

 日本で懸けられた懸賞金としては最高額である事は間違いない。金に目の眩んだ亡者達が血眼になって衛宮切嗣を探してくれる。もう切嗣は街を歩く事は不可能に近いだろう。これで失ったムスコの治療など行う事もできない。

「これで間違いなくセイバーを落とせそうです。それとお二人にメッセンジャーみたいな事をさせてしまい申し訳ない。つまらぬ物ですがこの地の地酒をいくつかご用意しておりますので空の旅でご活用ください」

 厳重に封印が施された積荷を引き渡した。これで私の大仕事は達成された。輸送に関しての責任は私ではないからね。

 当然だが、ギルガメッシュが参戦しているので空の移動も気をつけるようにと伝えてもいる。魔術により隠蔽されている水陸両用機をギルガメッシュが見つける事は困難ではあるが可能性が0(ZERO)ではない。積荷は米軍基地まで移動して本格的な軍用機で本国へ送られる。


 ――午後3時。

 ホムンクルスと桜が無事に米軍所有の軍用機で空の旅をエンジョイしている報告を確認する最中、テレビニュースによって盛大に衛宮切嗣の情報が流れた。『両親殺害』『旅客機撃墜』『テロ工作』『武器密輸』『ホテル爆破未遂』『児ポ法』などなど、今世紀最悪の犯罪者として大きく名が出た。

 更に、偽造パスポートでの入国も明るみに出てその手配や武器密輸に手を貸したアインツベルン家にも飛び火した。これほど程までの犯罪者を雇って日本に密入国させたのだ。ドイツ国内でも大きくニュースになっている。

 ドイツ国内の世論による政府パッシングが酷く、アインツベルン家のある場所に捜査の手が伸びたのだ。当然、今まで魔術で税金やらを騙していたのだがこれを機に盛大にバレた。これには流石の魔術協会も聖堂教会も手を組んで処理にかかったのだ。二世紀近く生きるアインツベルン家の当主の存在が明るみに出てはならない。よって封印指定執行者と埋葬機関が動く事になった。アインツベルン家の存在自体を無かった事にするのだ。

 その事を知り、私は笑うしかなかった。不正と汚職に塗れた魔術師だったとは、まったく碌でもないクズしかないのだろうか。我がハインケル家は借金で苦しんでる間もちゃんと納税もしていたというのに……。

 日本ではミレイの優秀な工作活動により大炎上している。9歳の女性を孕ませて出産させたという事実に基づいた情報を流しているのだ。まぁ本当のところはイリヤの年齢から逆算すると生後1歳未満で孕ませてる計算になるのだがそれは言わぬが花だろう、魔術師の存在を一般に公表するわけにはいかないからね。

 流石の日本政府も事の次第を重くみて自衛隊の派遣まで決定した。更に米国が300万ドルの懸賞金を懸けた事で一般人だけでなく日本各地にいる魔術師達がお金欲しさに大集結も始めていた。混沌の極みである。

………
……


 この事態を非常に重くみた監視役を勤めている聖堂協会は、即座にマスター達を招集した。

「今、聖杯戦争は重大な危機を迎えている。セイバーのマスターは昨今世界を騒がしている大罪人である事が判明した。よって私は非常時における監督権限をここに発動し、暫定的なルール変更を設定する。全てのマスターは互いの敵対行動を停止しセイバー討伐に尽力せよ!!」

 なるほど、原作通りではないが……討伐対象がセイバーに変わったか。だが現時点で生き残っているサーヴァントはアーチャー、アサシン、キャスター、セイバーだけなのだ。セイバーが討伐対象である為、戦力として計算されるのはアーチャーとキャスターだけだ。公式的にはアサシンは敗退しているので表に出てこないからね。

 報酬は令呪1画だけか……まぁ構わないさ。

「質問があるものはいるかね? 尤も、人語を話せるものに限るがね」

『キャスターのマスターだ。質問をしてもよろしいかな? 言峰神父』

 人語を話せる使い魔とドラえもん殿の道具を用いて言峰神父と会話をする。

『言峰神父。アーチャーのマスターである遠坂時臣氏は留置所で臭い飯を食っており既にリタイアしたという認識であったが? ……現在も留置所の中に居るのは確認済みだ』

「その通りのはずだが」

『聖堂教会の公式発表では、脱落者はアサシン、ライダー、ランサー、バーサーカーの4騎。これに相違ないな?』

「間違いない」

『では、残りサーヴァントは狩猟対象であるセイバー。そして狩る側のアーチャーと私のキャスター。しかし、それではおかしいのだよ。先日の港での一件……アサシンの姿が確認されている。その見解を是非、聖杯戦争の監督役をしている貴方の口から伺いたい。なんせ、アサシンのマスターは貴方の実の息子である言峰綺礼なのだからね』

「アサシンの姿を? また冗談を……アーチャーの宝具かもしれまい」

『御冗談をアーチャー……古代ウルクの王にして英雄王であるギルガメッシュ様の宝具は『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』、そして秘宝である『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』だけだ。当然、その中に相手の姿を模写する物があるかもしれないが、あの場で令呪を消費してギルガメッシュ様を撤退させたのだ。ならば、その場に残ったのは誰なんだ?』

「それは……」

『言峰神父と遠坂時臣が過去に接触している事は既にこちらも把握している。どうせ消費した令呪を補充する正当な機会が欲しかったのだろう。茶番もいい加減にしろ!! そんな事をしている暇があるなら令呪をばら蒔いて早急にセイバーを討伐すべきであろう。自衛隊まで動き出した情報があるんだぞ!!』

 実に楽しい。別に欲しくもない聖杯を餌に高みの見物が出来るこの立ち位置まさに最高である。ドラえもん殿も興味がない。私も汚れた聖杯など要らない。欲しかったお金も米国から存分にいただいているからね。

「どうやらキャスター陣営を甘く見ていたようだ。認めよう……我々、聖堂教会と遠坂時臣は共闘関係にある。更にアサシンは健在だ」

『聖杯戦争とは随分と品格が落ちたものだ。そのような戦いに英霊達を巻き込む事になるとは心苦しい限りだ。では改めて言わせていただこう。セイバー討伐は承諾しよう。但し、討伐に当たり言峰神父、言峰綺礼、遠坂時臣にはセルフギアススクロールで使わせていただきたい。どう考えてもキャスター陣営である我々が闇討ちされかねない』

「良いだろう。して条件は?」

『1. セイバー討伐完了までお互いのマスター並びにサーヴェントへの敵対行動を禁ずる。』
『2. セイバー討伐後には、アサシンとアーチャーの協力関係を破棄して本来あるべき戦いを行う。』
『3. 言峰神父が持つ令呪が我々と自己強制証明(セルフ・ギアス・スクロール)を結ぶ前に誰かに進呈されていた場合には、受け取った側は全ての令呪を用いてサーヴァントを自害させる。また、マスターも自害する。』
『4. 言峰神父が持つ令呪がセイバー討伐以外の用途で他者に引き渡すのを禁ずる。』
『5. セイバー討伐後、各マスターが令呪を受け取った後、1時間の敵対行動を禁ずる。』

「信頼されていないようだな」

『当然であろう。監督役が虚偽報告を行っていたのだ。令呪が既に渡されていた場合の条件も追加させてもらった。だが、至ってまっとうな要求であろう』

「よろしい、その条件でセルフギアススクロールを結ぼう。アーチャーのマスターには悪いがこの場に来ていただこう」

『臭い芝居はやめていただこう。教会の地下で匿っているのは既に分かっている。こちらの使い魔が自己強制証明(セルフ・ギアス・スクロール)を持っていく。こちらにはキャスターがいるのだ。騙そうなどと思うなよ』

 苦い顔をする神父は実に滑稽であった。



さて、次はどんな小話を挟もうか(´・ω・`)
イリヤ、凛、凛の母親、切嗣、アイリ、桜、ギルガメッシュなどご希望があれば頑張るお!!
※いただいけたすべてのご要望を叶えられるわけではないので
 そこらへんは許してね。