7月22日の金曜日に、ようやくスマホアプリ『ポケモンGO』の日本配信がスタートしました。
リリース初日は登録用の認証サーバがダウンし、プレイできない人がたくさんいたようです。
私自身もお昼休みにダウンロードして、プレイできたのは仕事が終わって家に帰宅した後の夜10時くらいでした。
さて、「ポケモン」といえば任天堂ですが、この『ポケモンGO』は、任天堂の開発ゲームではありません。販売も任天堂ではありません。
『ポケモンGO』はアメリカのGoogleからスピンアウトした企業であるNiantic社が、「ポケットモンスター」のライセンスを管理する株式会社ポケモンとタッグを組んで共同開発したゲームです。
なので、『ポケモンGO』の収益というのは、いったんはNiantic社に帰属します。
『ポケモンGO』の収益構造を理解するには、Niantic社と株式会社ポケモン、そして株式会社任天堂のポジションをはっきり認識する必要があります。
この記事では、『ポケモンGO』を取り巻く主要3社の関係と収益構造を中心にわかりやすく解説してみたいと思います。
3社の関係について
まずは3社の関係を見ていきましょう。
Niantic社というのはアメリカの企業であり、非上場企業です。だから、誰がどの程度出資しているのかというのは、はっきりとはわかりません。
しかし任天堂と株式会社ポケモンはNiantic社に出資していることを発表しています。
Niantic社に出資して、さらに『ポケモンGO』の開発協力をしている株式会社ポケモンは、株式の32%を任天堂が保有しています。
株式会社ポケモンは、任天堂の関連会社ということになるのですが、「持ち分法適用会社」という関係になり、株式会社ポケモンの利益は、任天堂の業績に反映されます。簡単に言うと、株式会社ポケモンの利益の32%は任天堂の利益でもあるのです。
アプリの売上はどのように配分されるのか
まず、『ポケモンGO』ユーザーが月間で100万円の課金をしたと仮定します。
このうち、約30%はアップルやグーグルに手数料として支払わなければなりません。
そして、この残り70万円をNiantic社と株式会社ポケモンで配分することになります。
この2社の収益配分契約が肝になってくるのですが、現在のところ契約については公開されていません。おそらく、企業間契約のため、今後も公開される可能性は低いだろうと考えています。
しかしながら、共同開発というかたちを取っているため、ポケモン社の取り分は、多くて50%、少なくとも30%程度はあるだろうというのが市場関係者の見方となっています。
そうなると、ポケモン社の取り分は100万円のうち21万円~35万円となります。
この取り分のうち、32%が任天堂の取り分となるわけなので、任天堂の収益は約7万円~約11万円となります。
『ポケモンGO』売上のうち、約7%~約11%が任天堂の決算に寄与してくるわけです。
(繰り返しますが、ポケモン社の収益配分を30%~50%と仮定した場合の試算です)
『ポケモンGO』の売上予想はどれくらい?
『ポケモンGO』が一体どれくらいの売上を叩き出すのか。現時点ではまだわかりませんが、アメリカでは配信4日で14億円を売り上げたと報じられています。
「ポケモンGO」公開4日で売上14億円突破、米調査会社データ | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
配信後のスタートダッシュもあるでしょうが、今後ユーザーが増えればさらに売上ペースが上昇することも考えられます。
ということを念頭に置いて考えると、アメリカでの年間売り上げは少なく見積もっても1,000億円はあるのでは?と考えています。
さらに、続々と配信が始まっている欧州でも、軒並みアプリ売上ランキング1位を獲得しています。
EUの人口がアメリカの約2倍であることを考えると、いくらポケモン人気がアメリカに劣るとはいえ、やはり保守的に見積もって年間1,000億円の売上は見込めるのではないか?と見ています。
そして日本ですが、7/23現在、配信してまだ1日にも拘わらず、アップストア、グーグルプレイどちらにおいても売上ランキング1位に躍り出ています。
かつて大流行したガンホー社の『パズドラ』とミクシィ社の『モンスト』、今でも広く楽しまれていますが、大体このレベルのアプリ売上で、年間1,500億円です。
『ポケモンGO』の人気が今後も持続すると仮定しての話になりますが、過去の例から日本では年間1,500億円の売上があると見ています。
さらに、まだ配信は未定ですが、ロシアや中国、インド、南米や東南アジアなどの地域もあります。
もし中国で配信されれば世界一の人口を誇る国なので、インパクトのある売上が見込まれることでしょう。しかし現在は配信未定のため、その他の地域として500億円と試算しておきます。
そうすると、私の個人的な試算では、『ポケモンGO』の年間売上は以下の通りになります。
| 地域 | 年間売上予想 |
|---|---|
| アメリカ | 1,000億円 |
| 日本 | 1,500億円 |
| EU | 1,000億円 |
| その他 | 500億円 |
| 合計 | 4,000億円 |
『ポケモンGO』における任天堂の取り分は?
これらの試算を基に計算すると、『ポケモンGO』の売上4,000億円のうち、約7%~11%、つまり280億円~440億円が任天堂の利益となります。
任天堂の平成28年3月期の経常利益は約287億円、純利益は約165億円です。『ポケモンGO』の売上が任天堂にどれくらいインパクトのある数字なのか、感想はそれぞれ違うと思いますが、個人的には見過ごせない数字だと思っています。
さらに、『ポケモンGO』を日本配信したその日の夕方、任天堂は「『Pokémon GO』の配信による当社の連結業績予想への影響について」というIRを発表しました。
本日、米国法人Niantic, Inc.は、日本でもスマートデバイス向けアプリ『Pokémon GO』を配信開始しました。
当アプリは、米国法人Niantic, Inc.が開発を行い配信しており、当社の関連会社である株式会社ポケモンは、ポケットモンスターの権利保有者としてライセンス料及び開発運営協力に伴う対価を受け取ります。
なお、株式会社ポケモンは、当社が議決権の32%を保有する持分法適用関連会社であるため、当社の連結業績に与える影響は限定的です。
また、当社は、今後、当アプリと連動する周辺機器『Pokémon GO Plus』の製造及び販売を予定しております。
これらは、既に平成28年4月27日に公表しました当社連結業績予想に織り込み済みです。直近の状況を鑑みても、現時点では、当業績予想の修正は行いません。今後、業績予想の修正が必要になった場合には、適時開示を
行います。
このIRが出た直後、ツイッターなどではネガティブな感想も見られました。しかしながら、私はこの「限定的」という表現については、「『ポケモンGO』売上すべてが任天堂に入ってくるわけじゃなくて、その一部なんだよ」という、注意喚起であるような印象を受けました。ほとんどの投資家はそんなことわかっているのですが、IRへの問い合わせが多かったのかもしれませんし、7/27発表の決算に対する牽制にも受け取れます。
『ポケモンGO』ビジネスにおける任天堂の可能性について
『ポケモンGO』ゲーム本体から受ける売り上げがその一部だったとしても、任天堂が『ポケモンGO』ブームから受ける恩恵は、まだまだ壮大な広がりがあるように感じます。
まず、『ポケモンGO』と連動できるウォッチ型ガジェット「Pokemon GO Plus(税抜き3,500円)が発売されます。これは任天堂の製造・販売です。Bluetoothで連動し、スマートフォンがスリープ状態でも周囲のポケモンの察知・捕獲が出来ます。ヘヴィーユーザーが購入することが予想されます。
さらに、今後の大きな広がりが期待できるのは「集客ビジネス」です。
ポケモンを捕獲するために、いろいろなところに移動するというゲームモデルは、大きな人とお金の流れを促進させます。
すでに日本リリース当初から、日本マクドナルドが提携を発表し、マクドナルドの店舗がポケストップとなっています。
特に、地方活性化の観点からは、非常に興味深い視線が送られているようです。
ポケモンGO 自民党IT戦略特命委員会、ポケモンで地方創生、任天堂に要望へ:イザ!
こういった集客ビジネスから、任天堂は契約次第で利益を得られるかもしれません。
この方面での収益は未知数ですが、やり方次第で任天堂はこの『ポケモンGO』というコンテンツの可能性を多方面に広げられるのではないか、とワクワクしています。
※本記事は個人の主観を基に書かれています。特定の銘柄への投資をあっせんするものではありません。投資は自己責任でお願いいたします。