四日間に渡ってオハイオ州クリーブランドで開催されていた共和党大会が7月21日に閉幕しました。

共和党は正式にドナルド・トランプを公認候補として推すことを決め、トランプはその推挙を受けて立つアクセプタンス・スピーチを行いました。



このスピーチを聞いて、僕が感じたことは、(トランプは、たんなるデマゴーグではないな)ということです。

デマゴーグとは扇動家を指し、聴衆の不安、不満を煽ったうえで、バラ色の未来を約束する偽りの候補者を指します。

トランプの場合、不安、不満を煽ることも盛大にやっていますし、えらく気前よく「アメリカをグレートにする!」という約束を連発しています。

あまりにも軽いノリで次々に約束してしまうので、少しでも政治にリテラシーのある有権者なら(こいつ、デタラメに、約束しすぎ!)ということにすぐ気がつくでしょう。

しかし……

トランプは、たんなるデマゴーグとは違うかも知れません。

なぜならデマゴーグの場合、空虚な約束を、ちゃんと果たす心算は、サラサラ無いからです。

もちろん、トランプの場合も、できそうもない約束をどんどんしています。しかしトランプという人間は、常に自分の「トランプ・ブランド」に対して、偏執的とも言えるこだわりを示してきたし、そのブランド・イメージを守るためには、手段を選びませんでした。

彼が大統領になった後で、しょぼい仕事をした挙句、「あいつは、やっぱりダメだったな」と世間から後ろ指さされることはトランプにとっていちばんイヤなコトでしょう。

つまりトランプは、有権者のために頑張るのではなく、自分のレガシー、ないしは神話のために頑張るタイプの男なのです。

それは何を意味するか?

トランプは、デマゴーグから「自分はホンモノだ」ということを、なにがなんでも証明しようとするボスへと豹変する可能性があるのです。

実は、アメリカの歴史の中で、このようなことは過去に実際に起こりました。

それは1929年にニューヨーク株式市場が大暴落し、アメリカ経済が大恐慌になった後で大統領に就任したフランクリンDルーズベルトが、腐り切った証券界を粛清するために、いかがわしい相場師の中でもとりわけ狡猾なジョセフPケネディSr.を「証券界の保安官」として新設された米国証券取引委員会(SEC)長官に任命したことです。

この人事を聞いた世間は、「なぜ盗人に金庫番をさせるのだ!」と大反対しました。

フランクリンDルーズベルトは「盗人を捕まえるには、盗人を上手く利用するのがベストだ」と、任命の動機を正直に説明しました。

ジョセフ・ケネディは、もうじゅうぶんに富を築いたので、これ以上、カネ儲けすることには興味を失っていました。その代り、彼が心から欲しがったのは世間からのリスペクト(尊敬)です。

ケネディはSECを泣く子も黙る、怖い存在にしました。一網打尽で、魑魅魍魎とした連中をしょっぴき、ニューヨーク市場は、それまでの「鉄火場」から、模範的な証券市場へと成長するわけです。

ジョセフ・ケネディは大統領にはならなかったけれど、実に9人の子供を設けました。そしてその中からジョンFケネディが後の大統領になるわけです。その他、ロバート(ボビー)ケネディ、エドワード(テッド)ケネディなどの上院議員を輩出し、ケネディ家は王朝(ダイナスティ)と言われるようになります。

ところで話は脱線するけれど、昨日、ドナルド・トランプのスピーチの直前に応援演説したドナルドの娘、イヴァンカ・トランプもとてもスピーチが上手く、政治家としての才能があると思いました。

(これは……トランプ王朝のはじまりか?)

と思わせるものがあったということです。

【関連する特集】
楽天証券 アメリカ大統領選特集(共和党大会のドロップダウンメニューをひらくと、昨日のスピーチに関する記事が読めます)