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堀江重郎教授のはつらつ男性専科

コラム

前立腺がんが日本で増えた理由

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前立腺がんが日本で増えた理由

 前立腺は骨盤のもっとも下、尿が () まる 膀胱(ぼうこう) を支える位置にあります。また直腸のおなか側にあります。

 この前立腺にできるがん、前立腺がんは最近増加が著しいがんですが、昨年初めて、日本人男性が 罹患(りかん) するがんで最も多くなったことが、国立がん研究センターの調査で分かりました。既に欧米諸国では前立腺がんは男性に最も多いがんで、死亡者も肺がんに次いで2位となっています。また、日本と同じ増加傾向がアジアの国々でも見られています。

 アジアではこれまで前立腺がんは少なかったので、人種による発がんの違いがあると考えられてきました。しかし、日本での前立腺がんの増加は人種、すなわち遺伝的な背景もさることながら食事の変化が大きいことを示しています。

 前立腺と乳腺はそれぞれ男性ホルモン、女性ホルモンにより成長する面で似ている臓器です。実はどちらも動物性脂肪の摂取がリスクを高めることがわかっています。

 例えば牛乳には動物性脂肪が多く含まれていますが、国別の牛乳消費量は乳がん、前立腺がんの頻度とよい相関関係があることがJane Plantというイギリスの科学者が見出しています。前立腺は、実はコレステロールを体の中でもっとも必要としている臓器です。大量のコレステロールを取り込んでいるうちに発がんの引き金が引かれると考えられています。

 

より悪性度が高くなる「老化」したがん

 

 

 前立腺がんは、肺がんやすい臓がんなどのがんに比べると進行が比較的遅いがんです。しかし、世の中には誤った理解、すなわち「高齢になるとがんの進みが遅くなる」と信じられている方も少なくありません。前立腺がんは実は30~40歳あたりでできて、長い年月をかけて大きくなっていくことがわかっています。加齢とともに前立腺がんも老化していきますが、「老化」したがんは、より悪性度が高くなっていくのです。従って、70歳、80歳の方のほうが前立腺がんで亡くなることが多いのです。

 前立腺がんの早期発見は採血でPSAという項目を調べることで可能です。多くの自治体で前立腺がんの検診事業が行われていますので活用するとよいでしょう。

 では、アジアではどうしてこれまで前立腺がんは少なかったのでしょうか?

 日本の過去50年の食事内容の変化を見ても、アジアの国々は炭水化物摂取が多く、たんぱく質や脂質の摂取が少ない傾向がありました。しかしこの30年、日々の食事での脂肪摂取が激増するに伴い前立腺がんも多くなってきたと言えます。

 

予防に有効な豆腐やウコン

 

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 前立腺がんの予防になると考えられている食材、あるいは食品に含まれる成分としては、トマト、ブロッコリー、大豆、わさび、そしてウコンの成分であるクルクミンがあります。

 たとえば、イタリアとフランス、隣り合った国ですが前立腺がんの人口当たりの患者数はフランスのほうが多いのです。これはイタリアの人々のトマト摂取が多いことも関連していると思われます。また、豆腐も前立腺がんの予防に有効です。夏のこの時期、冷ややっこは、前立腺によいですね。

 豆腐やウコンの成分は、ダイオキシンという発がん物質を体で受け止めるレセプターの働きを妨げることがわれわれの研究でわかりました。こういった野菜に含まれる体によい有効成分を機能性食品と呼びます。多くの種類の野菜をとることでさまざまな機能性食品を摂取できますが、都会ではどうしても野菜の種類もレタス、キュウリ、キャベツ、せいぜいトマトくらいに限られてしまうことも多いと思います。昨年、日本でも消費者庁の働き掛けで、機能性食品が含まれたサプリメントの表示が始まりました。

 健康に良いという証拠がある機能性食品は、ラベルでわかるようになっています。ドラッグストアでご検討ください。

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堀江重郎(ほりえ しげお)
順天堂大学大学院教授。泌尿器科医。1985年、東京大学医学部卒業。日米で医師免許を取得し、国立がんセンター中央病院などを経て、2012年より現職。男性更年期障害などを対象とするメンズヘルス外来にいち早く取り組み、男性をはつらつとさせる医学を研究する。ロボット支援手術ダ・ヴィンチのトップランナーとしても知られる。

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