米軍普天間飛行場の返還に伴う新基地建設をめぐり、政府が再び沖縄県との法廷闘争に入った。和解プロセスからの逸脱である。対話を通じてしか打開できないことを安倍政権は肝に銘じるべきだ。
話し合いで問題解決の道を探る心積もりなど、最初からなかったのではないか。そう勘繰らざるを得ない強権的な姿勢である。
政府が沖縄県名護市辺野古での新米軍基地建設をめぐり、翁長雄志知事が国の指示に従わないのは違法だとして県を相手取って新たな訴訟を起こした。法廷での決着を経て、本格的な建設作業を早期に再開したいのだという。
政府と県は今年三月に和解し、新基地建設をめぐる双方の訴えを取り下げ、打開に向けた協議のテーブルに着いていた。その最中の政府による訴訟再提起である。
沖縄負担軽減担当相でもある菅義偉官房長官は訴訟と協議は両立すると強弁したが、同時並行が円満解決につながるとは思えない。
参院選が終わったのを機に、協議による解決を一方的に放棄したとの誹(そし)りは免れまい。政府は陸上部分の工事を再開する意向も示している。いずれも辺野古での新基地建設を既成事実化しようとする動きであり、看過できない。
六月の県議選では翁長県政与党が過半数を確保した。今月十日の参院選沖縄選挙区では自民党の島尻安伊子沖縄・北方担当相が野党統一候補に惨敗し、沖縄から与党系国会議員がいなくなった。
いずれも、在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県に、米軍基地はこれ以上造らせないという県民の強い意思の表れだ。
安倍政権は選挙で示された民意を尊重し、辺野古「移設」をまず白紙に戻し、国外・県外移設など県民の抜本的な基地負担軽減策の検討に入るべきである。
安倍政権は、米軍北部訓練場の一部返還の条件とされている東村高江のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設工事も再開した。
選挙が終われば、結果に関係なく、地元の反対を押し切ってでも米軍専用施設の建設を進める。そんな強権的な姿勢で、県民の理解が得られるわけがない。
沖縄県では米軍関係者の事件・事故も相次いでいる。米軍施設を強引に造っても、県民の敵意に囲まれるだけだ。そんな状況で米軍への基地提供という日米安全保障条約上の義務を果たせるのか。
安倍政権にとっては、県民や翁長知事との真摯(しんし)な対話こそ「唯一の解決策」のはずである。
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