トランプ氏演説 同盟観が身勝手過ぎる
米共和党大統領候補指名を受け、トランプ氏が受諾演説を行った。政権奪還を狙う挑戦者の演説は、4日間にわたった党大会のハイライトである。しかし、紛争の絶えない世界の混乱にどう立ち向かうか。超大国にふさわしいだけの責任を担う気概は残念ながら感じられなかった。
殺人事件の増加や不法移民の急増、歯止めがかからぬ黒人の貧困。米国の暗部を詳述し、殺伐たる米国の情景を聴衆に印象付けたうえで、トランプ氏は「法と秩序を守る候補者」になると公言し、法執行を強化して治安対策を急ぐと公約した。
「米国第一」を掲げるトランプ氏の優先順位はあくまで国内問題である。演説のほとんどは内政と経済に割かれたが、その分、外交問題がすっぽり抜け落ちていた。
トランプ氏は「グローバリズムではなくアメリカニズム(米国主義)が信条だ」と言い切った。国際問題に関心はないと言わんばかりだったが、不安はやはり同盟観だ。
唯一具体的に語ったテロ対策では、情報収集の強化、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討に向けた同盟国との連携、テロを許す国からの移民停止を重点対策に挙げた。
米国人も犠牲になっているIS掃討は米国一国では対応できない。イラク戦争などの教訓から同盟国や国際社会と協調し包括的な対策で弱体化させるのが最善の策だからだ。
一方、トランプ氏は演説に先立つ米紙ニューヨーク・タイムズの取材では、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛義務について自動的に発生しないと指摘した。
トランプ氏は「(加盟国が)米国への義務を果たしているかどうか」を見極めて行動するという考えを示した。米軍の駐留経費を十分に負担しているかを念頭に置いている。
演説でも「我々が防衛している国々は応分の負担が必要だ」と改めて主張した。日本など駐留米軍を置く国が負担増に応じなければ撤退も辞さないとしてきた問題だ。
同盟国に対するトランプ氏の姿勢は、身勝手と言わざるを得ない。協力を求めるときは求めておいて、納得いく駐留経費を払わなければ同盟関係見直しを迫るという態度だ。
世界と自国の平和と安定を目的とする米国の世界戦略は、世界各地の同盟国に陸空軍を前線配備し、あらゆる大洋に海軍を展開することで維持されてきた。
緊密な同盟国を減らせば、テロ対策も不十分になり、ライバルのロシアや中国に有利に働く。なにより米国の安全が危うくなる。同盟国の存在は米国にも利益が大きい。明確な同盟国戦略がない米国が果たして強くなれるのだろうか。