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[FT]HSBCの米刑事捜査、またも銀行の信頼に傷(社説)

2016/7/22 15:00
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 顧客をどれほど大切にしているか、銀行はしきりにアピールする。英国を本拠とする国際金融機関HSBCのパンフレットには、顧客は「私たちの全ての仕事の中心」と書かれている。

 だが、ニューヨークで持ち上がった刑事事件は、うたい文句とはおよそ異なる実態をうかがわせる。HSBCの外国為替取引部門の幹部2人が、顧客の異例な大口注文の情報を悪用し、顧客を犠牲にする先回り取引で数百万ポンドの利益を得た疑いを持たれている。

保釈金を支払い、弁護士とともに裁判所を後にする英HSBCの外国為替取引部門幹部、マーク・ジョンソン氏(写真中央、20日、ニューヨーク)=AP
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保釈金を支払い、弁護士とともに裁判所を後にする英HSBCの外国為替取引部門幹部、マーク・ジョンソン氏(写真中央、20日、ニューヨーク)=AP

 HSBCも銀行業界も、略奪的との非難を呼ぶ疑惑が相次いでいる。そこにあるのは、もうけられるチャンスが来たら顧客の信頼を裏切ることも全くいとわない、という姿だ。

 HSBCは、外国為替市場の指標操作をめぐる民事訴訟で6億1400万ドルの支払いに応じたばかりだ。この数年、HSBCは何度も規制当局に和解金を支払っている。今回の事件は、HSBCが問題の外為取引を調査して不正行為はなかったとしていたことで、その社内文化と統制に対する疑念が再燃することになるだろう。HSBCは、そうした懸念を払拭しなければならない。

 事件の焦点は、2011年に英企業ケアン・エナジーが出した35億ドル相当の英ポンド買い注文で、その情報をトップトレーダーのマーク・ジョンソン氏とスチュアート・スコット氏が悪用した疑いがある。その情報の利用を制限する契約書に署名していたにもかかわらず、2人は先回りしてポンドを買い、ケアンからの手数料500万ドルに加え自己勘定取引で300万ドルの利益を得たとみられる。

 確かに、そのこと自体は不正行為ではなかった。外国為替は巨大な市場であり、ポンドとドルの取引だけでも毎日5000億ドル規模に及ぶ。顧客から大口注文が出そうだからといって、トレーダーは買いを止めない。しかし、事件の核心は2人がケアンに対して、自己勘定取引の利益が最大になるような取引設定を促したことだ。

 顧客は銀行から、日に何度か決められる「仲値」という指標レートに基づいて外貨を買う。2人のトレーダーはケアンに対し、変わりにくいことがわかっていた仲値、つまり売買が為替レートの急上昇につながりやすい仲値で取引するように仕向けたとされる。つまり、ケアンに損を負わせる取引だった。その上で、2人は積極的な取引で為替レートを押し上げた。2人は電話で、「ケアンが『悲鳴を上げる』までに」どこまで押し上げられるかと話し合っていたという。検察側によると、ケアンが為替レートの上昇について問い合わせると、HSBCはロシアの銀行の取引のせいだと虚偽の説明をしたという。

 株式市場と異なり、外為取引は規制が緩やかだ。大口法人顧客は自己利益を守れる立場にあると見なされていることは理解できる。だが、それは同時に、銀行は顧客を公平に扱う義務があり、規定の空白につけ込んではならないということも意味する。

 ニューヨークでの逮捕劇を受けて投資家は、HSBCが抱え込んでいる規制当局との係争に連鎖反応が起こるのではないかという不安を募らせるだろう。HSBCは、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の不備をめぐる訴追延期という複雑な状況の中にある。また、11年にHSBCの最高経営責任者(CEO)に就任するまで投資銀行部門を率いていたスチュアート・ガリバー氏にとっても、不名誉な事態だ。つまるところ、組織の文化はトップから生まれる。

 さらに銀行業界全体が、トレーダーに対するインセンティブ(誘因)について精査すべきだ。ホールセール市場は参加者間の信頼がなければ機能しない。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの今週の決算が示しているように、マーケット業務は落ち込んでいる。その回復を望むのなら、銀行は宣伝にうたう顧客との約束が信用されるように、市場での行状を正さなければならない。

(2016年7月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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