業績混乱のリスクがあることは今やテクノロジー業界ではごく当たり前のことだと思うかもしれない。だが、それを一部の大企業の決算報告の手法からは知りえないだろう。
今週マイクロソフトとインテルが発表した決算報告には、いまだにスマートフォンやクラウドコンピューティングの革命で生じた激変の影響が強調されていた。両社はパソコン(PC)全盛の時代を制した後、激動への対応の波にもまれる中で一定の打撃を被っている。
マイクロソフトは買収したノキアの事業が不振だったことから11億ドルの費用を計上し、携帯電話事業の波に乗るべく費やした72億ドル全額の償却を終えた。その翌日、インテルはポストPC時代を生き抜くための全面的な見直しのため14億ドルの事業再編費用を計上した。
これらは急速に変化する業界で競争する上で経験する典型的な業績の後退に聞こえるかもしれない。結局、マイクロソフトは過去5年間のうちの3年分の決算で買収事業の失敗による数十億ドル分を償却し、インテルも過去10年のうちの7年分で再編費用を計上した。
だが、両社は、投資家がこれらの企業の業績を評価する際に好んで用いる利益の算定方法から費用を除外している。両社は「米国会計基準(GAAP)」に基づく数字も十分重視してはいるものの、費用を除外した非GAAPベースの利益の数値のほうが圧倒的にウォールストリートのアナリストの目を引いている。
会計や証券の規制当局は今年、こういったプロフォーマ(試算ベース)の報告をやめるよう連携して企業に促してきた。これらの数値は監査を受けておらず、規制当局に正式に提出されるものではないため、非GAAPの決算数値の算出方法は完全に企業の裁量に委ねられている。だが、他の大半の産業よりもプロフォーマ・ベースの会計一辺倒だったテクノロジー産業にはそうした声は届いていない。
国際会計基準審議会(IASB)のハンス・フーガーホースト議長は、5月、再編や減損の費用は「どんな大企業においても日常的に発生するもので、通常の営業費用と考えるべきだ」と述べている。また、米証券取引委員会(SEC)は過去数カ月間、企業に対し、厳しい取り締まりを示唆しつつ、自制を促している。
企業価値1000億ドル以上の米国のテクノロジー企業9社のうち、非GAAPの決算報告を行っていないのはアップルとアマゾンだけだ。他の7社の昨年の純利益は合計200億ドル近く膨らみ、総額約1000億ドルに達している。
今年は少しではあるが、テクノロジー業界の一部で姿勢に変化の兆しが見られた。フェイスブックとアマゾンが共に、各事業セグメントの四半期決算を議論する際、それらのセグメントの業績の把握に有用であるという理由から、従業員株式の費用を考慮し始めた。
だが、これは企業全体の数値という、より重要な問題には至っていない。アマゾンは非GAAPの会計手法を企業報告レベルで用いたことはない。一方、フェイスブックはいまだに従業員株式の費用をプロフォーマ・ベースでは企業全体の利益から差し引いている。これにより、同社の昨年の非GAAPの営業利益は43%にあたる30億ドル増加した。
株式報酬費用は1つの要素にすぎない。この他にも幅広い様々な要素があり、比較を困難にしている。大手テクノロジー企業の中でもIBMだけが非GAAPの数値に一部の年金費用を再加算しており、一方で、オラクルやシスコシステムズは従業員株式や事業再編費用、のれん償却などを含むあらゆる項目を入れている。マイクロソフトはまだ実施されていない会計原則の変更を見込んで、直近の事業年度の決算に、再編費用に加えて、臨時収益の66億ドルをプロフォーマ・ベースの決算に計上した。
非GAAPの数値を用いるすべての企業はGAAPの会計数値と共にそれらを発表しており、そのどちらを参考にするかは投資家やその他の関係者に任されている。だが、ウォールストリートはもっぱらプロフォーマ会計の数値を見ている。
さらに、フーガーホースト氏が指摘したとおり、大半の企業幹部の報酬はプロフォーマの数値に基づいており、この決算数値には個人の利害が絡んでいる。営業利益はマイクロソフトの経営陣の年間賞与に25%まで関わってくる。また、非GAAPの決算を今年から発表するようになったインテルでは、成績評価の50%にも影響が及ぶ。
テクノロジー業界での混乱が強まる中、1つだけ明らかなことがある。それは、経費、つまり、利益の調整の動きがエスカレートする一方であろうということだ。
By Richard Waters
(2016年7月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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