本事案は、突然、訪問してきたNHKの担当者に滞納していたNHKの受信料約17万円全額をクレジットカードを使って一括決済されたものです。
時効になった分についても検討させる間もなく決済してしまったこと、生活保護水準以下であり、クレジットの支払いができないことを承知の上でクレジットを切らせたことなど、その支払わせ方に問題があると考え、NHKに善処を求めましたが、NHKからは、回答する必要もないとする対応だったことから、依頼者(Aさん)と相談し、ここにその事例を公表するものです。
但し、事案としてはわかりやすくするためにある程度、抽象化していますので、その点は予めご了承ください。

Aさんは、NHKの受信料を10年以上も支払いをしていない状態でした。
今年1月にNHKの訪問を受け、滞納分約17万円の請求を受けました。
Aさんは70歳を超え、年金月額8万円で生活していましたが、請求された受信料は払える額ではなく、Aさんは、NHKの担当者に生活が苦しく払えないということを年金額も含め具体的に説明をしました。
すると、NHKの担当者は、クレジットカードはないのかと言い出しました。
Aさんは、使っていないクレジットカードがあると伝えると、それを出すように言われ、そのままクレジットで一括で決済がなされてしまいました。
Aさんは驚いて、担当者に抗議しましたが、担当者は、クレジットの支払いも後から分割にでもできると言いました。
分割にしたとしても、Aさんの収入では生活保護水準以下ですから生活は厳しくなります。それをAさんが伝えると、何とNHKの担当者は、その収入なら生活保護も受けられると言って役所の電話番号をメモして渡してきたのです。
NHKの担当者はAさんの抗議に全く取り合おうとせず、帰りました。
Aさんは、NHKに対して苦情を申し入れましたが、全く相手にされませんでした。
そこで、私が依頼を受け、NHKとクレジット会社に対し、以下の問題点を指摘し、キャセル処理するよう申し入れました。
①NHKの受信料の時効は5年である最高裁判決も出たこと。
NHKは、ホームページ上で5年を経過したものについては償却済みとして公表しているが、それをクレジットカードで支払いをさせるのは問題であること。
NHKホームページより
②生活保護基準にも満たない収入しかないのに、高額なクレジット決済をさせたこと。
生活保護であれば受信料は免除扱いになることを承知で、しかも、返済能力がないことを承知でクレジットを利用させ、時効分も含めクレジットを使って回収したことは悪質であること。
③支払能力のない消費者から他の手段で支払いをさせることは北海道消費生活条例に違反すること。
北海道消費生活条例第16条第1項第6号
消費者又はその関係人を欺き、威迫して困惑させる等不当な手段を用いて、消費者又はその関係人に契約(契約の成立又はその内容について当事者間で争いのあるものを含む。)に基づく債務の履行を強要し、又は当該債務を履行させること。
Aさんは、生活保護を受給することになりましたが、生活保護を受給した以上、クレジット会社からの返済に応じることはできません。その点は、クレジット会社は承知しているところですので、結局のところ、NHKは、クレジット会社の損失において利得をしている関係になります。
私は、弁護士名で上記申し入れをしたところ、NHKからは何の回答もなく、後日、確認の連絡をしたところ、NHKからは回答の必要はないと判断したという回答でした。
NHKは、「公平」の名の下に時効期間が満了したものでも請求するという姿勢ですが、確かに、支払能力がある場合であれば全く不合理とも断定できませんが、他方で、時効に掛かっているかどうかは法的素養も必要とするものであり、それを意図的に隠して取り立てることは、消費者金融の取り立てた事例においても時効の援用することを認めている判例(注)もあることからも、NHKの取立方法に全く問題がないということにはなりません。
結果として、この損失はクレジット会社が負うことになりますが、それはすべて利用者に跳ね返ります。
他方で、NHKは、生活保護世帯では受信料免除を想定しており、国民全体の一定層からは徴収しないことを前提にしています。
Aさんの場合には実質的に生活保護水準にも達していなかったのですから、本来的にNHKが受信料徴収を前提としていなくても何ら問題のない場合です。決してNHKの負担でAさんが得をしている関係にはなりません。
本事案においては、まずはNHKがクレジット会社に対してキャンセル処理をして対処すべきものです。注 大阪高裁平成27年3月6日判決 当初より借主の消滅時効に関する法的無知のほか、突然訪問されて高額の支払請求を受けたことによる困惑同様に乗じて、僅かの金額でも早急に支払わなければならないかのような心理状態に誘導し、少額の支払いをさせて、事前に借主の消滅時効援用の方途を封じようととの意図の下に行われた疑いが濃い」として、その「意図の存否に係る解明はなされていない」ことから、原審に差し戻したもの。
(名古屋消費者信用研究会より)
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