特別対談

ジャーナリスト 鳥越俊太郎氏

2015.02.27

4度の手術と抗がん剤治療、
がん闘病を支えた漢方と鳥越流免疫力アップ法

~免疫力とがん治療の現在を鳥越俊太郎氏と矢﨑雄一郎が語る

ジャーナリスト 鳥越俊太郎氏との対談

オリンピックイヤーまでには保険適用を目指したいと思っています。

鳥越:さきほど抗がん剤の話になりましたが、抗がん剤でがん細胞を完全に消失させることはできませんよね?

矢崎:今のところ、完全消失は白血病ですとか、一部のがんに限られます。メラノーマという皮膚のがんですと、新しい薬が出ていて、抗がん剤で完全にがんがなくなってしまうケースも報告されています。実はそれも免疫療法のひとつですが、なぜこの薬で完全にがんがなくなるのかというところがわかってくれば、より良い薬が出てくるんじゃないのかなと。一方で、こういった最先端の医療が高額化してきているという問題もあります。そのバランスが非常に難しい。

鳥越:免疫療法とはどういうものなんですか?

矢崎:今我々が開発しているテラの樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞という細胞を体内から取ってくるんです。樹状細胞というのは、細菌とかウィルスのような外から入ってきた敵をガブッと食べて、それを自分の中で咀嚼して、そのあと体の奥の方まで入っていって免疫細胞たちに「これが敵だぞ」という指令を出す細胞なんです。樹状細胞の働きを発見したラルフ・スタインマン先生が2011年にノーベル賞を受賞していて、これは樹状細胞ががんに対する治療のコアとなる細胞だということを意味しているといえます。バクセル®もこの樹状細胞を用いており、東大の研究所で樹状細胞を人工的に大量培養する技術が確立されました。

鳥越:樹状細胞は、治療される本人から取り出すんですか?

矢崎:はい、本人から細胞を取り出して、数十億個の樹状細胞を作ります。実は樹状細胞は血液中にはあまりいない細胞なんです。ただ樹状細胞のもととなる、いわば樹状細胞の赤ちゃんのような細胞が血液のなかにたくさんあって、それを選択的に取ってきて、体外で樹状細胞を作って、その樹状細胞にがんの特徴を試験管の中で食べさせるんです。がんの特徴を食べた樹状細胞を体内に注射すると、リンパ節まで行ってがんの特徴を体中の免疫細胞たちに教え込むんですね。そうすると、がんの特徴を記憶したT細胞が最終的に現場まで行ってがんを叩いてくれる。簡単にいうとこういったメカニズムですね。

鳥越:なるほど。T細胞というのは免疫細胞のひとつですよね。他にNK細胞、マクロファージなんかがありますけど、そういう免疫細胞というのは物質として捕まえられるものなんですか?

矢崎:はい。これらは全部明らかになっていて、免疫細胞の役割もある程度はわかっています。昔は、免疫の間にどこまで相互作用があるのかわかっていない部分も多かったのですが、現在はそれぞれの免疫が総合的な関わりあいを持って、さらには敵を攻撃する免疫、攻撃にブレーキをかける免疫があり、相互に役割分担をしているということが実際にわかってきています。

鳥越:樹状細胞というのは体の中のどこにあるんですか?

矢崎:一番多くいるのは皮膚や肝臓、脾臓だと言われています。肺にもいると言われていますね。私たちはこの樹状細胞を使った免疫細胞治療をこれまでずっと大学で研究してきて、既に約9000症例ほどの実績もあります。ただ、これまでは自分の細胞を治療に使おうという概念がなかったんです。去年新しく再生・細胞医療にかかわる法律ができ、それでようやく当社の技術をすい臓がんを対象としたがんワクチンとして、今年中に治験を開始し、薬事承認を取得すべく準備を進めています。

鳥越:すい臓がんは難しいがんと言われますね。それじゃあすい臓がんは、ある程度進行していても樹状細胞を使って治療できるようになるんでしょうか。

矢崎:そうですね。エビデンスが重要なので、私たちは契約医療機関の臨床データを医療機関とともに解析しています。治験などできちんと効果を証明して、薬事承認を取得して、標準的な抗がん剤の治療をやっている患者さんにも使えるようにしていこうと取り組んでいるところです。

鳥越:もう治験段階なんですか?

矢崎:治験を今年中に開始したいと考えています。これまでは弊社の契約医療機関の一部では先進医療という枠組みで、民間保険の先進医療特約などが適用になっていたのですが、これからは保険適用を目指します。もちろん、すい臓がん以外のがんもターゲットにしていきたいのですが、治験のためにはある程度の症例数が必要でして、他にいろいろな薬が出ているということも考慮すると、対象にするがん種については検討が必要になってくるんです。テラの樹状細胞ワクチン療法はほぼすべての固形がんや血液がんに対応できるのですが、すい臓がんは進行が早く予後も悪いがん種ということもあり、まずはすい臓がんを対象に医薬品化を目指しています。

鳥越:じゃあ今年から治験で、どれくらい効果があるのかというところを証明していくわけですね。

矢崎:はい。日本は良くも悪くも免疫に関心が高い国だと思いますが、その日本で発展してきた日本初の細胞を用いたがんワクチンということで、承認までもっていきたいなと思っています。ただ免疫療法というのも万能ではなくて、体の免疫が元気な時に樹状細胞を体内に戻してあげられないと、免疫細胞達も元気に作用してくれないんです。だから一人で歩けなくなったり、食事ができなくなった患者さんにこのバクセルをやってもなかなか難しい。体の免疫が元気なうちに、先手先手でやっていくのが本当は一番いいんです。

鳥越:では末期がんだとなかなか難しいんですね。

矢崎:患者さんにもよりますが、できるだけ元気なうちに早く治療を受けてもらえるのが良いと思います。

鳥越:大学病院でもいくつか免疫療法をやってるところがありますよね。それは同じ治療法なんですか?

矢崎:使用する樹状細胞の成熟段階など方法は違うのですが、各研究機関でそれぞれエビデンスを構築していると思います。われわれも現在エビデンスを構築しているところです。

鳥越:保険適用でどのがんの患者さんも免疫療法を受けられるようになるには、もうちょっと時間がかかりますか。

矢崎:これは計画上の話なんですが、オリンピックイヤーまでには保険適用を目指したいと思っています。保険適用するためにはひとつのがんに種類を絞り込まなければならないので、今回はすい臓がんですが、それ以外のがんに適用されるようになるにはまた治験、認可という流れを繰り返す必要があるんです。多くのがん種で保険適用を目指すにはベンチャー企業だけでは難しいのが現状です。

鳥越:じゃあ今のところは、がんになるのをちょっと先延ばしにして、東京オリンピックくらいまで……(笑)

矢崎:先進医療(保険外診療)にはなりますが、患者さんには弊社の契約医療機関で治療を受けていただくことは可能ですので、選択肢のひとつとして考えていただいていいと思います。民間保険の先進医療特約などでもカバーされています。

鳥越:では、今でも希望すれば免疫療法を受けることができるんですね?

矢崎:そうですね。日本では37か所の医療機関で受けることができます。大学病院も民間のクリニックもあります。契約医療機関からのエビデンスが評価されており、治療を受けられる医療機関の数は順調に伸びています。

鳥越:それはがん患者にとっても明るい話題ですね。治療効果などについても、また改めて詳しくお話を伺いたいです。

矢崎:さきほどの、鳥越さんの免疫力を解析させていただくお話などもぜひ機会を設けたいですね。今日は鳥越さんのスーパーポジティブな考え方を聞かせていただいて、免疫力を高める鍵はやはり「前向きに考える力」だなと実感しました。本日はありがとうございました。

鳥越:こちらこそいろいろと勉強させていただきました。ありがとうございました。

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