東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

夏山登山 甘く見たら命取りに

 山の事故が一向に減らぬ。昨年一年間の山岳遭難は統計上最悪だった。多くの登山者を魅了する本格的な夏山の季節を迎えたが、自然は常に命の危険と隣り合わせだ。甘く見てはいけない。

 中高年の登山ブームが相変わらず続いている。“山ガール”と呼ばれる女性の急増など、若い層の関心も高まってきた。国内の登山人口は今、八百万人前後(レジャー白書)ともいわれている。

 だが見逃せぬのは、防止策が叫ばれても、山岳遭難が増え続けていることだ。

 とりわけ昨年は、目安となる数字のどれもが、記録が残る一九六一年以降で最も多かった。

 警察庁のまとめでは、昨年の山岳遭難は、全国で二千五百八件発生。遭難者は初めて三千人を突破し、三千四十三人に。死者・行方不明者は三百三十五人に上った。

 事故原因は、今回も道迷い(約39・5%)など初歩的ミスが目立った。年代別では、遭難者のほぼ半数、死者・行方不明者の約70%を六十歳以上が占めた。

 増加の最大の要因が、中高年を中心とした登山ブームの反映なのは明らかだ。遭難を防ぐには守るべき最低限のルールがある。

 中高年者は経験や体力を過信する傾向が強い。技術が未熟な若い人も含め、そんな人たちこそ山で身を守る基本を徹底したい。

 十分な事前準備と登山届(計画書)の提出、体力や経験に合った山(ルート)選び−少なくとも、そんな約束事は守りたい。

 登山届は遭難時に捜索範囲の絞り込みや素早い救出に役立つ。

 岐阜県は一昨年、県内の北アルプス入山者に条例で提出を義務づけた。本来登山者のマナーのはずだが、義務化後の昨年一年間は北アの登山届の提出は前年より約23%増え、遭難者は約30%減ったという。長野県も今月から義務化。新潟(焼山)、富山(剣岳)、群馬(谷川岳)も県条例がある。

 パソコンやスマホも活用され、火山情報の入手も難しくない。ネットで登山届も出せる。

 ルートごとに必要な体力や技術を評価した山の難易度表を公開しているのは長野や岐阜、山梨、静岡、新潟県。群馬県も準備中だ。自分に合った山選びの参考にしない手はない。

 だが最後は現場での登山者の判断だ。岐阜県警の山岳警備隊員から「北アの山荘の人の言葉」と伝え聞いた“教訓”がある。

 人の都合で登らずに、山の都合で登れ−と。肝に銘じたい。

 

この記事を印刷する

PR情報