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【コラム】

筆洗

 名著『収奪された大地』などを世に問うた南米の硬骨のジャーナリスト、エドゥアルド・ガレアーノ氏は、その七十四年の生涯で二度、クーデターによる亡命生活を余儀なくされた▼その彼が晩年、こんな警句を吐いた。「戦争やクーデター、軍事介入のほとんどは民主主義の名の下において、民主主義にそむく形で行われるのだ」▼なるほど一週間前に起きたトルコのクーデター未遂でも、反乱を起こした勢力は「憲法と民主主義の擁護」を大義に掲げていた。クーデターは失敗し、トルコの民主主義は守られたはずだが、どうも新たな民主主義の危機が始まったようだ▼エルドアン大統領率いる政権は、事件を機に粛清に乗り出した。軍人のみならず研究者や教員、裁判官まで解任され、その数は五万人を超えたという。一部の放送局の免許も取り消された▼政権に批判的な人々を一掃し、異論を封じ込めるかのような動きだが、大統領は「民主主義への脅威を取り除くため」と、非常事態も宣言した。わが国でも導入しようという動きがある憲法の「緊急事態条項」を使えば、国会の審議なしで法律と同じ効力を持つ政令を閣議で出せるようになり、基本的人権や自由を制限できるようになるのだ▼それは、「民主主義の名において、民主主義にそむく」ことになりはせぬのか。トルコで何が起きつつあるのか。目が離せない。

 

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