トルコ非常事態 強権の拡大が目に余る
強権的な取り締まりが度を越しているのではないか。
一部軍人によるクーデターが失敗したトルコで、エルドアン大統領が3カ月間の非常事態を宣言した。与党が多数を占める国会も承認し、大統領は議会に諮らずに法律を施行するなどこれまで以上に独裁的な権力を強めることになる。
政権はすでに事件との関連が疑われるとして軍人や裁判官ら約8000人を拘束し、公務員5万人以上に停職などの処分を下した。さらに私立学校の教員約2万1000人の免許と、24のテレビ・ラジオ放送局の免許を取り消した。
公務員や教育機関、メディアへの弾圧を強めているのは、政権が米国に滞在するイスラム教指導者ギュレン師をクーデターの「黒幕」だと主張し、その影響を受けたとみられる知識層を「テロ組織排除」の名目で一掃しようとしているからだ。しかし、本人は事件への関与を否定している。多くの反乱兵がギュレン師のお守りを持っていたというが、関与の証拠とするのは説得力を欠く。
米国がギュレン師の引き渡し要求を、事件に関与した明白な証拠がないとして拒んでいるのは当然だ。またギュレン師に共鳴した実業家らが支援する学校は日本にもあり、トルコは日本政府に学校認可の取り消しなどを求めている。これも根拠に乏しい要請と言わざるを得ない。
ギュレン師はもともとエルドアン氏を支持していたが、政権が市民デモを武力鎮圧するなど強権支配を進めたことから距離を置くようになったとされる。エルドアン氏は、ギュレン師を支援する大手紙ザマンに対し、編集幹部を逮捕するなど圧力をかけ、今年3月には政府の管理下に置いた。批判勢力を力で抑え込む中で起きたのが今回のクーデター未遂事件だった。
むろん事件の関係者は厳罰に処せられねばならない。しかし、捜査はあくまで明白な証拠と司法手続きにのっとって進めるべきである。エルドアン氏は、死刑制度を復活させ、関係者を処刑する可能性にも言及しているが、大統領権力の乱用は許されない。
欧米はじめ国際社会にとって、過激派組織「イスラム国」(IS)の封じ込めや、欧州へ流入するシリア難民問題への対応で、トルコの安定と協力は欠かせない。政権の強権姿勢を懸念しながらも厳しい批判を抑えてきたのはそのためでもある。
だが独裁化が進めば国民の不満は募り、政権基盤を不安定化させる。欧州連合(EU)加盟を目指す国として、国際社会がトルコに民主主義と人権規範の順守を期待していることを自覚してほしい。