ちくわとちくわぶ。たった一文字増えただけなのに全くの別物。
そもそも「ちくわぶ」というものを知らない人も多いかもしれない。
私の中ではみんな当たり前のように食べていると思ったちくわぶ。
実は関東圏だけでのローカル食材だったらしい。
東京(関東)ローカルの食材で、全国的には「ちくわぶ」という存在すら知らない人がいる。近年はテレビなどで取り上げられて知名度が上がり、全国チェーンの大手スーパーなどで真空パックの製品が取り扱われている。だが現在でも首都圏以外ではほとんど見かけることがなく、全国的には現物を見たことすらない人がほとんどである。
Wikipediaより
なんということだ。
馴染みがないどころかスーパーにさえ置いてないなんて。
関東にいたっては「ちくわぶがないとおでんじゃない」という人も現れるほどの人気食材だというのに。
スープがよく染みて、モッチモチの食感がたまらないちくわぶ。
関東では練り物界で不動の地位を築きあげた。
私は勝手に思ってしまった。
冬になると話題になる「ちくわぶ」に憧れを抱く練り物も少なくない。
全国クラスのメジャー食材「ちくわ」もその存在に憧れた時期があったのではないだろうか、と。
ちくわはもはや語る必要もないくらい全国に知れ渡った食材である。
コストも比較的安く手に入り、どんな料理にもあう万能食材だ。
そのままマヨネーズをつけて食べても美味しい、単品としても十分活躍できる練り物だ。
かたやちくわぶは単品では料理にならない。
いやいや、そのまま食べても美味しいよ。という猛者もいるかもしれないが、基本的にはおでんなど何かのスープとともに煮込むことで本来の味を発揮する。
ちくわもおでんに入れることはあるし、そんなニッチなちくわぶに憧れを抱く必要はない。
しかし「ちくわぶ」には唯一無二の武器がある。
食感だ。
ダシがよく染みたちくわぶはしつこいくらいモッチモチで、噛めば噛むほどにその味わい深さを感じさせてくれる。
ちくわも食感はあるものの、ちくわぶほどの独特なモチモチ感はどうやっても出せない。
たった一文字増えただけでこうも食感が違うのか。
おでんの中でともに並べられたとき、そんな挫折感を味わったかもしれない。
そこで私は考えた。
何とかしてちくわをちくわぶに変えてあげることは出来ないだろうか、と。
一瞬でもいい、ほんの少しでもちくわぶに近づかせてあげたい。
魚肉のすり身で出来たちくわでは、根本的な材料から違うという意見は聞いていない。
生まれや出身が違えど、努力でまかなえるものもあるはずだ。
むせかえるような暑さの中、私はスーパーに走った。
汗だくになりながら、ちくわだけを握りしめヘラヘラ笑ってたのを見かけたとしたらきっと私だ。
急いでちくわを買ってきたのはいいが、いったいどうやってちくわぶにするか…
美味しそうに焼き色がついたちくわを眺めながら考えた。
そうか。
この焼き目がちくわぶになるのを邪魔しているのかもしれない。
そう思った私はちくわぶの見た目になるように、丁寧に皮をはずした。
思ったよりも難しかったが、なんとか表面だけ剥がすことができた。
これで見た目は限りなくちくわぶに近くなった。
でもこれは違う。
ちくわぶに見せただけのただのちくわだ。
本当になりたいのは食感で楽しませる「ちくわぶ」だ。
見た目だけの子供だましでは満足できない。
悩みに悩んだ末、最終兵器をつかうことにした。
伝家の宝刀、小麦粉。
うどんを作る要領で塩と水をまぜてコネたものだ。
そう。
実はこれが「ちくわぶ」である。
うどんと全く同じ作り方で、工程だけかえたのがちくわぶなのだ。
これを丸く棒状に形を整えれば「ちくわぶ」が完成する。
ただ今回はちくわぶを作りたいんじゃない。
ちくわが進化したちくわぶを作りたいのだ。
コネた小麦粉をちくわに鎧のようにまとわせ、ついにちくわをちくわぶにすることに成功した。
どうだろうか、この完璧なフォルム。
もはやどこからどう見てもちくわぶだ。
え?
ただちくわぶが周りにコーティングされただけだろうって?
いやいやいや。
確かに周りの生地だけ茹でればちくわぶだ。
しかしこれは中にちくわが入っている。
言うならば新たな食材「ちくわちくわぶ」だ。
もっとかっこよく言うならば、
ちくわじょう(乗)ぶだ。
そしてこれはただの合体ではない。
進化だ。
他の食材と醤油、みりん、お酒とともに煮込めば…
ちくわじょうぶと卵のモチモチ煮が完成する。
この、煮込まれたちくわじょうぶを一度食べてみてほしい。
モッチモチのちくわぶと、ほどよい柔らかさでダシを染み込ませたちくわのコンビネーションが想像の上をいくうまさだ。
ここにちょっとカラシをつけてピリっとさせれば、きっと日本酒がとまらなくなる。
もしもこの冬、セブンイレブンのおでん売り場にちくわじょうぶが並んでいたら思い出してほしい。
ちくわのあきらめない想いが新たな食材を生み出すきっかけになったということを。