恋も仕事も、ピッタリくる相手を探すには失敗がつきもの

日本とアメリカ両国での就業・就学経験があり、子を持つ母でもある、東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さんと、cakesの人気連載「アメリカはいつも夢見ている」「アメリカ大統領選やじうま観戦記」の渡辺由佳里さん。共通点の多いお二人に、「働くこと」について語っていただきました。仕事と母親業とをこなすなかで実感した、働くことの本質、そして、企業と個人が目指すべき、新しい雇用関係とは? 女性はもちろん、働くすべての人に読んでほしい新連載です。

恋愛に学ぶ、相性のいい職場の探し方

— 自分に合った企業や働き方を見つけるには、どうしたらいいんでしょうか?

篠田 うーん、会社との距離感って本当に人ぞれぞれだし、一発で「これだ!」と見つかるほうが珍しいと思います。そこも、やっぱり友達関係とか恋愛関係と似ていますよね。

渡辺 そうそう。

篠田 恋愛にたとえて言えば、はじめは「すごく背の高いスポーツマンが好き」だと思っていたはずなのに、いろんな人と付き合っていくうちに、「意外にぽっちゃりが好きだわ」みたいに変わることってありますよね(笑)。 そうやって経験を重ねるうちに自分に合う人がわかるんじゃないかなと。

渡辺 そうそう。逆に、自分では相性の悪さに気がつかなくて、友達に「なんでまたそういう男と付き合うんだ!」って叱られたりとかもしますよね(笑)。真貴子さんは、実際にはどんな恋愛をしてこられたんですか?

篠田 20歳ぐらいまでは、なんとなく相手に頼りたいという感じがありました。自分が女の子だから。
 でもだんだん、たとえば車の助手席に座っていても、「私が運転したいんだよな〜」ってイライラしていることに気がついて、徐々にチェンジがありましたね。

渡辺 ふふふ。

篠田 それまでは、最終的にはそこに落ち着くであろうタイプの人と出会ったとしても、「こんなおとなしい人と付き合うのもアレだし」とか、「私が運転してるのを周りに見られたら、『なにあれ』って言われちゃうし」なんて思って、それでうまくいかなくて。どこかで無理していました。

渡辺 うんうん。

篠田 でも、だんだんもう、別に人がどうとかいうことじゃなくて、私は車が好きだから運転したいし、別に見た目がマッチョじゃなくても、この人といると楽しいからいいかって、思えるようになったんです。

渡辺 前回お話した、relationship(関係)のなかで、どれをとるかっていうことですよね。

篠田 そうそう。どれをとるかという選択って、はじめはなんとなく、世の中の物差しで決めちゃうんですよね、きっと。自我が芽生えはじめたときには、まだ自分自身のことをよく分かっていないから。

渡辺 他人から自分がどう見えるか、で決めているんですよね。だから恋人を選ぶときも、その人と付き合って一緒に歩いてる自分をよそから見たとき、これならいいかな、という感じで選んでいる。

篠田 絵になる私、みたいなね。

渡辺 一番重要な人間関係なのに、ほとんど考えていないと。

篠田 渡辺さんの恋愛はどうでした?

渡辺 私もそういうスタートでした。高校時代にプラトニックながらちょっとだけ「ボーイフレンド」だった人とはケンカばかりしていたんです。でもね、その人、日本人なのにジョージ・ハリスンに似てたんですよ。

篠田 あはは! それはかっこいい。

渡辺 で、大学生になってから久々に会ったら、また口喧嘩。本当に気に入らないタイプなんですよ、お互いに。あっちは女のくせに生意気だって思ってるし、私のほうも、なんだその封建的な考え方は!って思ってるし。

篠田 ふふふ。

— うまくいかない経験があったからこそ、今の状況が自分に合っているんだとわかったということですね。

渡辺 そうです。「また間違えた〜!」っていう経験を何度かして、最後に「これが一番求めていたものなのかな」とわかる。うちの夫に最初に会ったときもそんな感じでした。
 彼はよく話をする人で、それが心地いいなと思ったんです。そういう人はそれまであまりいなかったんですけど、そのとき、私はわりとコミュニケーションを取りたいほうだったんだと気づきました。

篠田 運良くそういう人と出会ってはじめて気がつくっていうのはありますよね。

渡辺 やっぱり、タイミングなんですよね。もしも出会ったのが5年前だったら、うまくいかなかったと思うんです、お互いに。だって、そのときには求めているものが違ったから。

篠田 仕事でも、失敗を経て理解して、ようやく自分の求めていたのはこれじゃないんだってわかる。だから、いくつか試すっていうのも、ものすごく自然なことだと思いますね。

思い描く「自分らしさ」は存在しない

— その「求めていたものとは違った」と気づくことって、恋愛においても仕事においても、意識的にできるものなんでしょうか?

篠田 う〜ん……。それに気づくには、「視点を変えること」なんでしょうけど、なかなか難しいですよね。私もそうでしたけど、20代のころって、「視点を変えること」イコール「自分がダメになる」みたいに思ってしまいがちなので。

— えっ、具体的にはどういうことですか?

篠田 たとえば、「妻たる私は、毎日ご飯を作るべき。ご飯作ってる私、えらい」って思ってるとするじゃないですか。それを、「私も働いているし、作らないのもありなんだ」って自分の考えを変えようとする。でもそれって、ご飯を作ることに自分の存在意義を感じてる私からすれば、「本来の私を捨てた」と感じてしまう。

渡辺 価値観を曲げる、みたいな。

篠田 「私らしさ」みたいな本来は絶対的でないものをどこかで追求してしまうんですよね。それで、「いい妻になりたかったのに、それを怠るなんて、そんな私は“私らしく”ないんじゃないか」と変化する自分を否定することになる。
 でも、そう思うのがはじめは普通なんだけど、どこかで、その考えを変えてもいいんだと気づくときがあると思うんです。

渡辺 私も心当たりがありますね。自分の頭の中の理想像との戦いというか……。

篠田 仕事でも恋愛でも、一つの視点の考えでいるとだんだん無理が出て、ツラくなっちゃうんですよね。それでどこかで「やるだけやってみたけど、もう自分を変えてしまった方が楽だし、早いな」と気づくというか。妥協とかじゃなくて、トータルにハッピーになって、自分も楽になるからいいやっていうふうな姿勢にどこかで悟るんです。でも、このチェンジってけっこう簡単じゃないなって。

渡辺 みんな、人生のなかで「自分とはなんなんだろう」とずっと考えているわけじゃないですか。でも、「自分はこうだ」と思ってるものが誤解だったりもする。
 仕事の話で言えば、なにもまだ学んでいないうちから「自分は仕事できる人間で、こういう将来があって」と考えていても、最初は全然思っていたような仕事はさせてもらえないわけで。

篠田 「私こういうことやるために雇われたんじゃないんですけど!」とか言っちゃったりね(笑)。

渡辺 そうそう(笑)。それを変えちゃうと自分じゃない、みたいなかんじでね。私も昔は、自分で考えている自分を否定されたら、さっさと見捨てるかケンカしてた気がします(笑)。

篠田 ええ。

渡辺 それをしなければ、自分は負けたとか、そういうふうに思ったと思うんです。だから、視点を変えるには、年を重ねることや失敗の経験も必要なのかなと思ったりもするんですよね。

篠田 そうですね。自分と違うものにいっぱいぶつかって、葛藤もして、それでもサバイブしている自分、そういうのを何パターンか見ていくと、だんだん削ぎ落とされていくと言うか。うんと若いうちにそういう経験をして、早くからそうなっている人もいるでしょうね。

渡辺 年齢を重ねてても、ずーっとぶつかり続けてる人もいますけどね(笑)。

篠田 そう。ただおしなべて、自我が芽生えたときというのは、間違っている可能性の高い自己像を抱えている。でも、それよりも楽な見方っていうのはあるはずなんです。そこにいくプロセスは、楽ではないけど、必ずある。 たからやっぱり、色な経験をしてトライアンドエラーを繰り返すことが重要なのかなと思います。

次回「転職は『裏切り』ではないし、解雇通告も『不幸』だけではない」は7/28更新予定
待ちきれない人は渡辺由佳里さんの「どうせなら、楽しく生きよう」も併せてお楽しみ下さい。

聞き手:中島洋一、構成:中田絵理香

リンクトイン創業者が提唱する「人と企業」の新しい関係とは。

ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ
ダイヤモンド社
2015-07-10

この連載について

初回を読む
母が語る、あたらしい働き方—渡辺由佳里×篠田真貴子対談

渡辺由佳里 / 篠田真貴子

日本とアメリカ両国での就業・就学経験があり、子を持つ母でもある、東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さんと、cakesの人気連載「アメリカはいつも夢見ている」「アメリカ大統領選やじうま観戦記」の渡辺由佳里さん。共通点の多いお二人に、「...もっと読む

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