金融政策の正常化は時期尚早か
マクロ経済学において、著名な経済学者らの間で研究が進められている分野の一つとして「長期停滞論」がある。この「長期停滞論」は、2013年11月にIMFが主催したシンポジウムでローレンス・サマーズ元米財務次官によって提唱されて以来、欧米の経済学者の関心を集めてきた。
だが、サマーズ氏自身も認めているように、「長期停滞論」は、サマーズ氏のオリジナル・アイデアではない。これは、1937年に当時の全米経済学会会長であったアルヴィン・ハンセン氏によって提唱されたものであり、サマーズ氏はそれを現在の世界経済の状況に当てはめたに過ぎない。
ハンセン氏が「長期停滞論」を提唱した1937年は、主要国が、1930年前半に経験した世界大恐慌からようやく脱却しつつあった年である。だが、大恐慌から脱出した後の主要国の経済成長率は恐慌前とは比べ物にならないほど低いままであった。
ハンセン氏は、各国政府が危機からの脱出に満足するのではなく、この低成長局面を脱するために何をすべきか真剣に考える必要がある、ということを全米経済学会の総会の冒頭挨拶で指摘したのであった。
だが、残念ながら、当時の米国は、大恐慌時代の経済政策を正常時の経済政策に戻そうとしていた。例えば、当時のFRBは出口政策(事実上の金融引き締め政策)を実施し、同時に米財務省は増税を実施した。そして、これによって、米国は再び深刻な景気後退に見舞われ、結局、FRBは量的緩和を再開させることになり、財政拡大も大恐慌時以上の規模で実施せざるを得なくなった。
サマーズ氏は、現在の米国経済の状況が1937年当時の状況と類似しており、現在のFRBも当時のFRB同様に金融政策の正常化を実施しようとしている点について、「FRBが利上げに転じることは時期尚早である」との指摘を行った。しかしFRBは昨年12月、これを無視する形で最初の利上げを実施した。
その後、世界的なマーケットの大混乱や米国経済自体の減速懸念の台頭などもあり、なかなか2回目の利上げに踏み切ることができないでいる。だが、今のところ、最初の利上げによって、米国経済が致命的なダメージを受けた形跡はない。
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