放射線防護4施設が土砂警戒区域
四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の重大事故に備え、原発から30キロ圏の伊方町内に整備された七つの放射線防護対策施設のうち、四つが土砂災害警戒区域にあることが分かった。うち一つは危険性のより高い特別警戒区域にも入っていた。細長い佐田岬半島の付け根にある同原発は3号機が再稼働に向けて作業中だが、大地震などで原発事故と土砂災害が重なった場合、屋内退避先として使えなくなる可能性がある。【畠山哲郎】
放射線防護対策施設は、原発事故による放射線から身を守るために一時的に避難する施設。東京電力福島第1原発事故を受け、要介護者などすぐに逃げられない住民らに利用してもらおうと、原発から30キロ圏のエリアで整備が進められている。一定の条件を満たせば、国が整備費用を全額補助する。
伊方町では、町や愛媛県、社会福祉法人が、既存施設の改修や建物の新設により、計約7億3800万円をかけて7カ所に整備した。全て鉄筋コンクリート造りで、放射性物質を除去するフィルターなどが取り付けられている。
このうち土砂災害警戒区域に建っているのは、町が運営する九町(くちょう)、瀬戸、串の3診療所と社会福祉法人「愛寿会」の高齢者福祉施設「瀬戸あいじゅ」。串は特別警戒区域にも入っている。九町と瀬戸あいじゅは土石流の危険性、串は急傾斜地が崩壊するリスク、瀬戸診療所はその両方があるとされる。県によると、現在は警戒区域ではない高齢者施設「つわぶき荘」と県立三崎高校、伊方中央公民館も、今後の調査で区域内に入る可能性があるという。
4施設の整備が決まったのはいずれも警戒区域に指定された後で、町などが選び、県が追認した。町の担当者は「土砂災害も考慮したが、診療所には医師がおり、ベッドがあるなど、退避先として望ましいと考えた」と説明。瀬戸あいじゅの担当者は「入所者のために整備したが、警戒区域のことは知らなかった」と話す。県原子力安全対策課の担当者は「警戒区域にないのが望ましいが、他に適当な場所がなく、仕方がないと考えた」としている。
放射線防護対策施設の整備を進める内閣府も、大地震と原発事故が重なる「複合災害」を想定しており、国の補助金で整備する場合は▽現行の耐震基準を満たす▽津波の浸水被害を受ける可能性が低い−−などの条件を課している。しかし、「土砂災害警戒区域を除いてしまうと、整備する場所がなくなる」として土砂災害についての制約は設けていないという。
設置、考えられない
広瀬弘忠・東京女子大名誉教授(災害リスク学)の話 地震時に同時発生する災害としては土砂災害が非常に多い。その警戒区域に原発事故時の避難施設を置くことは、考えられない。土砂で道が塞がれ、施設にたどり着けるかどうかも問題だ。斜面が多く土砂災害に弱い半島に伊方原発はあり、再稼働しないことが最大の対策ではないか。
【ことば】土砂災害警戒区域
急傾斜地の崩壊、土石流、地滑りの恐れがある地域について、土砂災害防止法に基づき都道府県が指定する。特に危険度が高い地域は特別警戒区域に指定され、崩落した土砂が押し寄せると予測される部分を鉄筋コンクリート造りにするなどの規制がかかる。国土交通省によると、6月末時点で44万2976カ所あり、うち28万7830カ所が特別警戒区域。