(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年7月20日付)
トルコ・イスタンブールの公園で行われたレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を支持するデモで旗を振る人々(2016年7月19日撮影)。(c)AFP/DANIEL MIHAILESCU〔AFPBB News〕
失敗に終わったトルコのクーデターについて、まだ解明されていない謎がいくつかある。その1つは、16日土曜の朝、ヘリコプターに乗った奇襲部隊がトルコ南西部マルマリスのリゾートホテルを襲撃した一件だ。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がこのホテルに滞在しているはずだった。だが、襲撃があったのは、トルコのすべてのニュースチャンネルがおよそ750キロ離れたイスタンブールの空港から国民に向けて演説するエルドアン氏の映像を流してから1時間近くたった後のことだ。
このエピソードは、今回のクーデターにまつわる多くの矛盾と奇妙な出来事の1つだ。クーデター自体の素人っぽさが失敗を確実にし、陰謀論の豊富な材料を提供している。トルコが極端に二極化している――エルドアン氏のことを好きな人と嫌いな人がほぼ半々に割れている――ことも噂話をあおるだけだった。
週末に行われた緊急世論調査によれば、クーデターの首謀者は誰だったのかという重要な問題でさえ、今や真偽が争われる現実だ。世論調査は、トルコ人の3分の1がクーデターの背後にエルドアン氏がいたと考えていることを示していた(調査を実施したのはロンドンに本拠を構えるストリートビーズで、調査対象はトルコ人2800人。3分の2は携帯アプリ経由、3分の1は直接会って調査した)。
こうしたトルコ人に言わせると、あのヘリコプターの襲撃は、エルドアン氏の乗った航空機が1度もミサイルを発射しなかった戦闘機2機に追尾されたとの報道と並び、大統領の命が決して危険にさらされなかった証拠だ。
「トルコ人は世界中の多くの人たちと同じように、とかく陰謀論にはまりがちだ。複雑な出来事、自分たちが完全には理解できない事象について、単純すぎる説明をうのみにする」。駐トルコ米国大使を務め、現在はアトランティック・カウンシルに勤めるロス・ウィルソン氏はこう語る。「エルドアンが秘密裏にクーデターを仕組んだのか? それは荒唐無稽だ。では、米国がこれを企んだのか? それも同じくらい荒唐無稽だ」
トルコ人にしてみると、公式な説明の正確さに対する深い疑念は、歴史に根差している。1996年、イスタンブール近郊で起きた自動車事故は、思いもよらぬ同乗者を明らかにした。警察の本部長、超国家主義者のギャング、その恋人の美人コンテスト優勝者、そしてクルド人の国会議員という顔ぶれだ。この事故は国家機関と犯罪組織の間の怪しい関係を世に知らしめ、国家的なスキャンダルになった。