トランプ氏指名 愚かな「壁」を築くのか
とうとう、ここまで来た。
暴言や不作法を重ね、いつかは失速すると思われた実業家のトランプ氏が、ついに米共和党の大会で大統領候補に指名された。副大統領候補には、トランプ氏と対照的に政治経験があり党主流派とのパイプ役になれるペンス・インディアナ州知事が指名された。しかし、トランプ氏の危うさは全く改善されていない。
そもそも党内に疑問が渦巻いている。党大会は重要行事なのに、ブッシュ前大統領や過去2回の党大統領候補であるマケイン上院議員、ロムニー元マサチューセッツ州知事らが欠席。開催地オハイオ州の知事でトランプ氏と指名を争ったケーシック氏も出席を見送ったという。
また、一部の代議員は予備選などの結果に拘束されずに候補を選ぶことを提案し、トランプ氏への根強い反感を浮き彫りにした。メラニア・トランプ夫人の演説が、ミシェル・オバマ大統領夫人の8年前の演説に酷似しているとの問題も浮上した。
だが、何より問題なのは政策だ。共和党の政策綱領には、違法移民対策としてメキシコ国境に壁を造るというトランプ氏の主張が盛り込まれた。ローマ法王も問題視した愚かな主張を、米国の伝統と美風を重んじる共和党が公認したのは驚きだ。同党の迷走は深刻と言うしかない。
また、トランプ氏の「日韓核武装容認」発言に関連して、綱領は「米国の核兵器を盾とする同盟国」との関係を再構築する必要があると述べ、「核の傘」を含めた米国の核政策を見直す可能性も示唆した。
物議をかもした「イスラム教徒の入国禁止」提案は、特定地域から米入国を希望する外国人らを対象に特別な調査を行うとの表現になった。
だが、この二つの政策は依然、大きな問題をはらむ。特に核政策を見直すなら日本への影響は避けられない。トランプ氏に合わせて、綱領が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に慎重な態度に転じたのも日本にとって大きな不安材料だ。
目を引くのは、米国を特別な存在とする「米国例外主義」を綱領の冒頭に掲げたことだ。また、オバマ政権の「弱さ」ゆえに「侵略」が生じたとして、南シナ海での中国の「増長」やロシアのクリミア編入に言及、北朝鮮は「金一族の奴隷国家」だと厳しく批判したが、この3国への具体的な対応は詳しく述べていない。
オバマ政権を批判するだけでは展望は開けまい。「米国第一」「米国を再び偉大な国に」という声高な主張とは裏腹に、トランプ氏には世界の安全安定への視点が決定的に欠けている。米国は特別な国と誇るのなら、自国の損得だけでなく世界の利益こそ考えるべきである。