所有者不明の土地増加 全国各地で影響

所有者不明の土地増加 全国各地で影響
相続などの登記がされないまま放置され、所有者が誰か分からなくなっている土地が全国各地で増えている問題で、防災対策や自然環境の保護などの分野でも、事業が遅れるといった影響が出ていることが、自治体などへの取材で分かりました。専門家は、「土地の権利関係を明確にする重要性を、行政の責任で社会に浸透させる必要がある」と指摘しています。
社会の高齢化や都市部への人口の集中を背景に、相続などの登記がされないまま放置され、所有者が誰か分からなくなっている土地が全国各地で増えていて、国は、今後10年間で、こうした土地が倍増するという見通しを示しています。

NHKが取材したところ、山形市では、大雨で住宅地の裏山が崩れ、県が復旧工事をしようとしましたが、斜面の土地の所有者が分からず、6年間、工事が始められない事態になっていました。
また、新潟市では、大雨に備えて、市街地の湖に堤防を建設しようとしましたが、湖の底の一部に、明治時代を最後に登記が途絶えている土地があることなどが分かり、相続の権利がある子や孫などが合わせて1200人以上に上っていました。
買収交渉はこれからで、着工のめどは立っていません。
北海道浜中町では、環境保護団体が、「霧多布湿原」を守ろうと、弁護士や司法書士に依頼して周辺の水源地の所有者を調べていますが、戸籍や住民票をたどっても、当事者などを割り出せないケースがあり、多額の費用がかさむ一方で、調査は思うように進んでいません。

一方、東日本大震災の被災地では、新たな災害から住民を守る防災対策を進めるため、土地の所有者がすべて分からなくても工事を始められるようにする新たな仕組みが特例として導入されました。
岩手県宮古市では、この仕組みを使って、所有者が分からない土地が多くあった場所に、町が、津波を防ぐための防潮堤を建設しています。しかし、こうした仕組みが使えるのは、今のところ、大規模災害の被災地の自治体に限られていて、ほかの地域では、公共工事などに活用することはできません。
土地の問題に詳しい東京財団の吉原祥子研究員は、「個人の財産と公益のバランスをどう取るかという問題があり、行政も、積極的に踏み込むことには慎重にならざるをえない。国が法律を作り、地域の実情に即した対応策を考える必要がある」と指摘しています。

こうしたなか、京都府精華町では、将来、土地の所有者が分からなくならないように、独自の取り組みを進めています。
家主などが亡くなり、家族が、役場の窓口に死亡届を出しに来ると、土地を相続する登記も忘れずにするよう呼びかけています。
今回、取材で町役場を訪れた際も、町の職員が、死亡届を出しに来た住民に、土地の登記について、丁寧に説明していました。
登記の大切さを社会に広める取り組みとして注目されています。
行政法が専門の上智大学法科大学院の北村喜宣教授は、「高齢化で、今後、亡くなる人が増えるので、対策は待ったなしだ。土地の権利関係を明確にする重要性を、行政の責任で社会に浸透させる必要がある」と話しています。