サッカーのドイツ1部リーグ、アウクスブルクで午後の練習が終わったときのことだ。選手のロッカールームは、練習場から数百メートル離れたスタジアムの中にある。宇佐美貴史(24)がそこに戻ろうと歩いていると、パラグアイ代表FWのボバディージャがちょっとした“おふざけ”をした。彼は自分の短パンの後方を下ろし、筋肉隆々のお尻を丸出しにしながら追い越していったのである。テレビだったら放送できない姿だ。
ボバディージャは得意げに振り向き、「タカ!」と叫んで親指を突き出す。宇佐美は大笑いすると、すぐさまドイツ語で「Stinkt!」(臭い)と突っ込んだ。他のチームメイトも大爆笑。まだ加入から2週間ほどだというのに、チームに溶け込んでいるのが伝わってきた。
■アットホームな雰囲気にやりやすさ
7月1日、G大阪に所属していた宇佐美のアウクスブルクへの移籍が正式に決まった。現地の報道によれば、移籍金は150万ユーロ(約1億7500万円)。宇佐美は期限つきで2011~12シーズンにバイエルン・ミュンヘン、その翌シーズンにホッフェンハイムでプレーしており、G大阪での3年間を経てのドイツ再挑戦になる。
記者会見で「今回は完全移籍。人生をかけた再挑戦になる」と語ったように、宇佐美自身の経験も準備も19歳だったときとは違う。バイエルン時代と違って通訳はついていないが、チームメートと積極的にドイツ語でコミュニケーションをとっている。韓国代表MF具滋哲(ク・ジャチョル)も仲がいい一人だ。
宇佐美はチームのアットホームな雰囲気にやりやすさを感じていた。
「バイエルンは別次元として、ホッフェンハイムのときよりも、クラブ全体がサポートしてくれるのを感じます。受け入れ体制がいい。たとえば昨日まで1週間休みがあったんですが、そのときに『ちょっと体を動かしたい』と伝えたら、チーフスカウトとゼネラルマネジャー(GM)が『じゃあ、自転車をこぎにいこう』と誘ってくれた。子供と遊ぶスポットも教えてもらっている。すごくアットホームな感じがしますね」
アウクスブルクはミュンヘンから車で約1時間の距離。宇佐美は早速、日本食を食べにいったそうだ。
「食材など買い物にも困らないと思います。もうすぐ家族が日本から来るのですが、生活面でまったく不安がないです」
話がややそれるが、宇佐美が加入していきなり1週間休みになったのには、新監督の独特の調整法が関係している。
アウクスブルクの新監督に就任したディルク・シュスター氏はブンデスリーガで一番ハードワークを求める指揮官で、今夏ドイツ1部18チームの中で最も早く練習をスタートさせた。ただし、そこには科学的な裏付けがある。約2週間厳しく追い込んだ後に、1週間のオフを用意して疲労を完全に回復させる。このメリハリが、タフな体をつくるのだ。