ソフトバンク創業者の孫正義氏(58)は18日、ロンドンのハイドパークの外れにあるフォーシーズンズホテルで昼食を取りながら、史上最大となる欧州ハイテク企業買収の達成について静かに熟考していた。
英国ハイテク産業の最も貴重な資産であるアーム・ホールディングスに対する243億ポンド(約3.3兆円)の巨大な賭けを正当化しながら、孫氏は静かに箸でバゲットサンドイッチをつつき、機械の知能が人間のそれを追い抜く未来に思いをめぐらせた。
「シンギュラリティー(技術的特異点)が到来すること、コンピューターがいずれ人類より賢くなることを私は心から信じている」。孫氏は、ハイテク産業が目にした中でも特に劇的な投資の賭けに出る原動力となった強烈な自信を示し、こう言い切った。
アームの設計はすでに、毎年出荷される150億個以上の半導体に使われているが、これは孫氏が次に来ると考えていることの手掛かりでしかない。
「すべての街灯がインターネットに相互接続されるだろう。車が通っていないときに節電できるから」。孫氏はこう話す。「自動車がすべてつながり、自動運転車がずっと安全になる。すべてのモノがつながっていく。その最大公約数が何かと言えば、アームだ」
もし孫氏のこのビジョンが壮大だとしたら、わけがあった。昨年の売上高がわずか15億ドルの会社に43%ものプレミアムを払うことで、孫氏はグローバルな半導体産業の基準に照らすと小規模な英国企業を、ハイテク界最大の新市場の一つ、いわゆる「モノのインターネット(IoT)」の主役に変える自分の能力に賭けた。
孫氏は記録的な速さで買収交渉を進め、わずか3週間で話をまとめた。だがにわかに生じた情熱ではない。1970年代半ばには、インテルが開発した高性能半導体に感心するあまり、その拡大写真を枕の下に置いて寝たほどだった。同氏が感じた魅力は、将来を予見してみせた。ほどなく、パソコン時代の幕開けを目にすることになった。
それから40年たった今、孫氏は世界の半導体産業の一観測筋から破壊者に転じた。同産業は今、さまざまな機器が相互につながる時代と向き合い始めている。
■「2、3年ごとにアイデアがぽんと浮かぶ」
今回の買収は、孫氏が退任する前に仕上げたいとする「クレージーなアイデア」について警告して以来、市場を席巻していた推測ゲームに答えを出すことになる。当初は60歳になるときに実現するよう計画していたトップ交代を先送りすることで、先月、元グーグル幹部で孫氏の後継者とされていたニケシュ・アローラ氏の突然の退任が起きた。
「私は常に大きなアイデアを持っている。2、3年ごとにぽんと頭に浮かんでくる」。孫氏は今月、本紙(英フィナンシャル・タイムズ)にこう語っていた。