ソフトバンクは、7月18日、英半導体設計大手ARM(アーム)ホールディングスを100%買収すると発表した。日本企業による3.3兆円に上る大型買収は英国のメディアでも大きく取り上げられ、欧州連合(EU)からの離脱決断で経済の先行きに不透明さが増す中で「英国のビジネスへの信任状だ」(政府首脳陣)として歓迎された。
ARMのルーツは、あの会社のあの端末だった
一方、英国を代表するテクノロジー企業が外国資本の傘下に入ることへの残念さや英国のテック業界の将来を案じる声も出ている。
■ 英国ではどんな存在なのか
半導体業界では世界的に著名なアーム社とはどのような会社なのか。
アーム社は英東部ケンブリッジに本社を置く。その起源は1978年創業のエイコーン・コンピュータ社だ。1980年代にイギリス国内のほとんどの学校で導入された「BBCマイクロ」コンピュータを開発したことで知られるコンピュータ会社である。
移り変わりの激しい業界の荒波にもまれる中で1990年、エイコーン社のスピンオフとして生まれたのが半導体設計を主力とするアーム社だ。アップルのPDAとして知られる「ニュートン」の共同開発プロジェクトがきっかけとなった。資金を出したのはアップル。アップルが150万ポンドを出資し、エイコーン社がエンジニア12人を提供した。
1999年にはFT100指数の中に入るまでに成長し、2007年には携帯電話の98%にアーム社の技術が入った半導体が搭載されるようになった。現在までに同社設計の半導体が使われているのはテレビ、スマートフォン、タブレット、ドローン、スマート・ホーム(インターネットに接続された室内温度調節器、電力メーター、煙探知機など)、スマート・カー、ウェアラブル機器など実に幅広い。ただし設計開発に特化した企業であり従業員は約4000人と多くない。
アーム社という名前自体は英国でもあまり馴染みはない。しかし、世界中で誰もが知らず知らずにその技術を使っている、という隠れたエクセレントカンパニーだ。
英国発祥の企業で、これほど世界的に使われる技術を持つ企業は珍しく、英国のビジネスの中でも「戴冠用の宝石」(クラウン・ジュエリー)、つまり重要な資産として位置付けられてきた。
そんなアーム社が外国企業に買われたことで、国内では様々な反応が出た。
■ 政府は歓迎したが、危険性指摘も
ハモンド財務相は買収は英国のビジネスに対する「信任状だ」として、歓迎した。ソフトバンク社が今後5年間で英国内に1500人分の新規雇用を確約したことも好意的に受け止められた。
テリーザ・メイ氏を首相とする新政権が買収を歓迎するのも無理はない。6月23日の国民投票で英国がEUからの離脱(「ブレグジット」)を決めたことで株価が下落し、ポンド安も続いてる。経済の先行きに不透明感が出る中、英国を欧州市場への玄関口として見てきた外国資本が海外に出ていくのではないか、と言う懸念が強くなっているからだ。外国企業が巨額を英国に投資する案件は、「英国経済は大丈夫だ」というPR効果もあって、願ったりかなったり状態に違いない。
ソフトバンク側は以前から考えていた案件だったには違いないが、新政権の樹立が13日。買収話の発表が18日。「何らかの示し合わせあったのだろうか」とテレビ局「チャンネル4」のニュースで記者が示唆する場面もあった。
英国では1000社を超える日本企業が約14万人を雇用している。英国としては日本に出ていかれては困る。ソフトバンクのように自国に投資してくれる企業を必要としている。
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