国が来年度から調査支援 開発リスク低減
経済産業省は地熱発電所の拡大に向け、立地地点絞り込みの調査を支援する。火山が多い日本は、地熱発電の地下資源量で世界3位だが、掘削調査に時間がかかる上、調査しても熱源を発見できないリスクがあることなどから、開発が停滞している。ただ、拡大には、温泉事業者との調整などのハードルも残り、道のりは平たんではない。
地熱発電は一度開発されれば燃料が不要で、安定した電力供給源となる。政府は2030年度までに地熱発電量を3倍にする目標を掲げる。ただ、採算性の高い熱源を発見するには、約5年の掘削調査が必要。発見できなければ、投資が無駄になるリスクがあり、開発業者が二の足を踏むケースが多い。
そこで経産省は、政府出資の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が立地有望な地点を深さ約500メートルまで掘削し、地下の温度データを収集して高温域を絞り込む事業に乗り出す方針を固めた。初期段階の調査を一定程度国が負担し、成果を民間事業者に利用してもらうことで、事業のリスクやコストを低減する狙いだ。来年度予算の概算要求に盛り込む。
政府はこれまでも多様な地熱発電の開発促進策を実施しているが、効果が上がっていない。12年には固定価格買い取り制度導入のほか、国内の建設適地の大半が分布する国立・国定公園内での環境規制を緩和。JOGMECを通じ、開発業者向けに地質調査や試掘費用の助成や債務保証も行っている。だが、小規模の計画は増えたものの、出力7000キロワット以上の大型計画は停滞し、具体化したのは昨年着工した秋田県湯沢市の計画など3件で、合計出力は約6万キロワットに過ぎない。政府は昨年策定した電源構成目標で、地熱発電を現在の52万キロワットから約3倍に増加させる方針だが、達成にはほど遠い。
開発のハードルは技術的な問題だけではない。地熱発電は都道府県の許可が必要だが、温泉源への影響を危惧する周辺の温泉業者から理解を得にくいのが実情だ。自治体も地下の熱源や地熱発電の知識が少なく、住民と業者間の調整に入りにくい。
このため政府は今年6月、専門家23人で構成する「地熱資源開発アドバイザリー委員会」をJOGMEC内に設置し、自治体の求めに応じてデータ分析や情報提供を行うサービスを開始。8月には、地熱発電に関するデータやノウハウを、自治体同士で共有するネットワークも整備する。専門家からは「一歩前進だが、温泉業者の抵抗感は根強く、大きな変化までは期待できない」との声も出ており、利害関係者の調整を進めるためのもう一工夫が問われそうだ。【宮川裕章】
キーワード・地熱発電
地下1500〜3000メートルの地熱貯留層にある高温の蒸気や熱水を利用し、タービンを回して発電する。少ない運転費用で安定供給でき、発電時の二酸化炭素(CO2)排出量がほぼゼロという利点がある。掘削調査期間が長く、初期投資が高いのが難点。また地熱資源の8割が環境規制の厳しい国立・国定公園内に集中している。日本では1970年代の石油危機で一時、開発機運が高まったが、原発重視政策もあって下火に。2011年3月の福島第1原発事故以降、環境規制の緩和など開発支援に力を入れ始めた。政府は総発電電力量に占める地熱発電の割合を、30年度までに現在の約0.3%から1〜1.1%に増やす目標を立てている。