どうも。
お菓子業界でこの道10年以上戦い続けてきた私なのでお菓子にはそれなりにうるさい。自社の製品だろうと他社の製品だろうと、旨いものは旨いし、旨くないものは旨くない。適当な生き方しかしていない私だが、この辺りはさすがにプロとしての矜持がある。
一番旨いアイス
店頭で食べるようなアイスクリームを除き、市販のアイスクリームの中で一番旨いものは何か?と街頭アンケートを取ったら、100人中99人が「ハーゲンダッツ」と答えることだろう。
残りの1%は多分、雪見だいふくだろう。
確かにハーゲンダッツは旨い。極上である。ただあれは高い。高すぎる。
私は思う。高くて旨いのは当たり前の話であって、それは「後出しをすればジャンケンには勝てますよ」と言っているのと同じだと思う。当たり前を通り越して、それはずるい、だ。
安いのに旨い、という感じで値段以上の価値を提供するからこそ賞賛されるべきであって、十分に客から金をぶん取っているものが評価されるのは少し違うんじゃないかと思ってしまう。まあハーゲンダッツは旨いのだが。
むしろ高くてマズイものの方が価値が高いかもしれない。希少価値という意味だが。
コスパで考えよう
ということで、今回私が紹介したいアイスは高いものではない。値段と味のクオリティのバランスが完全に狂っている一品である。
それがこちらの『MOW(モウ)』である。
こいつがまあヤバイ。大体どこの店に行っても100円で購入できるのだが、味を正確に値段にしたら倍ぐらいにはなるだろう。このクオリティでこの値段にするとは森永、やるじゃないか…。同業者の私には分かるぞ、その凄さが。
では実際に何が凄いのかを、ちとマニアックな話になってしまうが語っていこうじゃないか。
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種類別
かなり乱暴なまとめ方になるが、アイスクリームの旨さというのは結局のところ、「乳脂肪分の多さ」で決まってしまう。乳脂肪分というのは生クリームのことだ。生クリームにも植物性のニセモノと、ちゃんと牛から取れた動物性の本物がある。ここでいう生クリームは当然、牛から取れた動物性のもののことである。
で、アイスというのはこの乳脂肪分の多さによって種類別の名称が変わる。
乳脂肪分が少ない順に
①氷菓(乳脂肪分ほとんどなし)…シャーベットとか
②ラクトアイス(乳固形分3.0%以上)…自販機のアイスクリームとかがこれ
③アイスミルク(乳固形分10.0%以上 うち乳脂肪分3.0%以上)…雪見だいふくとか
④アイスクリーム(乳固形分15.0%以上 うち乳脂肪分8.0%以上)…ハーゲンダッツとかMOW
という感じになる。
つまり選ばれし者だけが「アイスクリーム」という名前を使えるのだ。
店でアイスをよく見ると実はほとんど「アイスクリーム」は存在しない。あってもやたら高かったりする。それも当たり前の話で、生クリームというのは高いのである。それをふんだんに使ったアイスクリームが高くなるのは必然である。
だが我らがMOWは高くない。だから凄いのだ。だから賞賛されるべきアイスなのだ。もっと褒め称えられろ。もっと騒げみんな。
原料について
続いては原料である。さらに『MOW』の凄さに迫ろうじゃないか。
『MOW』のパッケージには「北海道牛乳使用」と書いてあるが、 これはどうでもいい。むしろお菓子の乳成分に北海道産を使用しない方が珍しいぐらいである。使って当たり前のレベルだ。
では何が凄いか?
それは「北海道牛乳使用」の下に書いてある「乳化剤安定剤不使用」という言葉である。この文言によって私の脳は破壊されてしまったのだった。
お菓子に詳しくない人のために、簡単に説明する。簡単じゃなかったらゴメン。
さっきも書いた通り、『MOW』はそもそも使っている原料が高い。そうなると、あの100円というふざけた値段にするためには「人件費」を削るしかない。それ以外に方法は存在しない。断言する。
その人件費というのは、『MOW』を作っている作業者の時給を下げるということではない。少しでもアイスを作るときにかかる手間を減らすということである。
アイスを作る手間を減らす。そのために乳化剤と安定剤は必須である。これがあるのとないのでは大違いなのだ。
この乳化剤と安定剤というのは、エクセルで言う所のショートカットキーである。これによってとんでもなく簡単になるのだ。ただし、味が落ちてしまうのは否めない。
原料は高いものを使っている。手間も掛けている。なのに安い。意味が分からない。私の脳が破壊されるのも当然だろう?
ちなみにハーゲンダッツも乳化剤と安定剤を不使用である。さすがだ。
なぜこんなに評価されていないのか?
こんなにも異常を極めたアイスクリームがなぜこんなにも評価されていないのか?
私のように専門知識があろうがなかろうが、その旨さは食べれば分かることのはずだ。
そのヒントがこの動画の中にある。
簡単にまとめると、「人は高いものを口にすると『美味しい!』と感じてしまう」ということだそうだ。これは舌の肥えた食通でも同じ現象が起こる。
つまり私たちは値段が高いか安いかで味の判断をしてしまっているのだ。
これは悲しい事実である。そしてここに我らが『MOW』が支持されない理由がある。
みんな自分の舌を信じろ。いや、信じちゃダメなのか?よく分からなくなってきたが、とにかく自分の舌は値段に騙されることがあることをよくよく理解しておくことだ。
だからいつまでもハーゲンダッツに踊らされているのだ。もしかしたら柴咲コウかもしれないが。
もったいない
せっかく日本の優秀な企業が努力の全てをつぎ込んで安く、良質なものを提供してくれているのだ。あとは私たち消費者がそれを純粋な目で(舌で)判断するだけである。
それがいつまでもできなければ、今度は企業側が諦めてしまうことだろう。
「どれだけ企業努力しても、みんな高いものしか旨いと思わねえじゃん。もう安いもんなんか作らなくていいよ」
会議室でそんな言葉が出てくるかもしれない。
さあみんな目を覚ませ。ちゃんと旨いものを旨いと評価せよ。
以上。