【マニラ=佐竹実】フィリピンのヤサイ外相は19日、南シナ海の仲裁裁判の判決を棚上げしようとする中国の呼びかけを拒否したことを明らかにした。比政府が判決棚上げの拒否を言明するのは初めてで、ドゥテルテ大統領は同日、「ヤサイ外相を全面的に支持する」と述べた。自国の主張が全面的に認められた判決をてこに、2国間交渉を有利に進める狙いだ。
ヤサイ外相が地元テレビのインタビューで語った。ヤサイ外相によると、16日までモンゴルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会合の際、中国の王毅外相と非公式に会談した。その際に、王外相から仲裁の判決を前提としない条件付きの2国間協議を持ちかけられた。
ヤサイ外相はこれに対し「フィリピンの国益や憲法にそぐわない」と拒否した。その上で「紛争を平和的に解決できる方法が必ずある」と伝えた。王外相はフィリピンが判決の履行を主張するのであれば、両国は対立に向かうことになると述べたという。
国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は12日、南シナ海のほぼ全域に主権が及ぶと主張する中国の「九段線」について、法的根拠がないとする判決を出した。フィリピンの主張が全面的に認められた内容だ。ASEM首脳会合では、中国の海洋進出を念頭に「国際法の完全な順守」の重要性を議長声明に盛り込んだ。
これに対して中国の劉振民外務次官は13日の記者会見で「判決を棚上げして協議に応じてほしい」と呼びかけるなど、フィリピンの懐柔を画策していた。経済支援などをちらつかせて直接協議による解決策を見い出し、判決を有名無実化するとの思惑があるようだ。
フィリピンのドゥテルテ大統領は、インフラ整備などの投資を念頭に中国との2国間対話をする意向をかねて示すが、「領有権は絶対に譲らない」とも繰り返し述べている。ヤサイ外相のASEMでの発言は、こうした比政府の方針を踏襲したものだ。
フィリピンが2国間交渉に言及するのは、全面勝訴した判決を後ろ盾に中国の行動を押さえ込み、譲歩や経済協力を引き出す狙いがあるからだ。だが中国側が判決を前提に交渉のテーブルに着くことも考えづらい。判決の内容の尊重を求める日米などに対し、中国は従わない意向を示している。当面は仲裁裁判の判決を巡り、各国による駆け引きが続きそうだ。