ソフトバンク史上最高額でARMを買収した本当の意味とは? 孫正義氏が思いの丈を熱弁
2016年7月18日、イギリスの半導体知的所有権会社、アーム・ホールディングス(ARM)との戦略的提携について、ソフトバンクグループ代表取締役社長・孫正義氏が記者会見を行いました。
- シリーズ
-
ARM買収の提案に関する記者会見 2016年7月18日のログ
- スピーカー
- ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役社長 孫正義 氏
グロスのデットはこれからどんどん改善していく
司会者 電話会議にて日本のみなさまからのご質問にお答えいたします。なお、ご質問される際は会社名とお名前を最初におっしゃってください。それでは受付順にご質問を承ります。 記者5 日本経済新聞社のタケウチと申します。1つ確認と2つ質問があります。 ブリッジローンの説明のところで、これはSupercellの売却資金とか、ガンホーの資金が来月以降入ってくるのでブリッジローンだというご説明がありましたが、そうするとこれは基本的にはブリッジローンというのは、売却資金で返済、つまりグロスで見たデットは今回の買収では増えないということになるんでしょうか。 もう1点が、ネットで見た純有利子負債で見たところとの水準というのを御社は重要なKPIとして見ていたかと思いますが、今後この純有利子負債をEBITDAで割った倍率というのは、直近の株主総会では3倍程度にまで改善していたと思うんですが、今後はどれくらいの水準を適正だというふうにコントロールしていくのでしょうか。その2点をお願いします。 孫正義氏(以下、孫) 今回のブリッジローンは、まずSupercellとガンホーの資金が来月から入ってくるということで、そのブリッジローンの大半は入ってくる資金でまかなえるということですけれども。 会社には常にある程度の資金的な余裕を持っておいたほうがいいということもありますので、ネットデットという意味で言えば、今までとほとんど変わらない状況になるんではないかと思います。 もともとソフトバンクのネットデットのEBITDAに対するマルチプルが高いとか言う人がたまにいますけれども、よく考えてみていただきたいんですけど、私自身はネットデットは実質ゼロじゃないかと思っているんですね。 なぜかというと、ソフトバンクが持っている上場株式、これの規模を考えると、まあ7兆円、8兆円という規模がありますよね。この規模というのは、ソフトバンクの直接的なネットデットから考えると、ほぼタダになるレベルの規模じゃないかと思います。 それに加えて、EBITDAが毎年22~23ビリオン、2兆数千億円のEBITDAが毎年あると。つまり、潤沢なフリーキャッシュフローをそこに持っているということなので、そこを考えると、僕から言わせると、ほとんど実施的にはA(シングルA)かAA(ダブルA)の規模じゃないかと。 日本のレーティングエージェンシーではすでにAクラスだったと思いますけど、国際的に見ても我々よりもレーティングの高い会社で、これほどのフリーキャッシュフローを持っている会社はあまりないんじゃないかなと。 だから、僕は本質的にはソフトバンクはバランスシートが非常に強い会社であると考えてますし、これからもフリーキャッシュフローがどんどん増えてきていると。 とくにスプリントについても、今までEBITで10年ほど赤字、それも非常に大きな赤字ということだったのが、スプリントも初めてEBITのレベルで黒字になったわけですね。 急激にV字回復ということで、ステージが進んでいると思ってますので、表面的なグロスのデットについても、EBITDAとのマルチプルから考えますと、これからどんどん改善していくんではないかなと考えています。よろしいでしょうか。
2兆円の現金化は今回の買収を見据えていたのか
記者6 東洋経済のヤマダです。のれんについてお聞きしたいんですけど、3月末にソフトバンクグループは1.6兆円ののれんがあって、純資産が1.6兆円です。それで今回、2,520億円の純資産の会社を3.3兆円で買うわけですから、3兆円くらいののれんが出ると思います。 これはソフトバンクグループとしては、純資産を超えるのれんを持つと思うんですけど、この件についてはどう考えておられますか? 孫 はい。のれんの規模が今回非常に膨らむわけですけれども、のれんはその会社の価値が急激に劣化したときには、のれん代を評価減を立てなきゃいけないとかということはありますけれども。この10年間ぐらい見ていただいて、ARMはその純利益を毎年、非常に順調に増やしていってると。増益、増益、増益の連続だと。 スプリントと違って、ずっと黒字の会社で、しかも純利益がどんどん増えているという会社なので、のれんを、急にそれを償却しなきゃいけないと、評価減を立てなきゃいけないというようなリスクはほとんどないと私は思っています。 つまり、ARMはなにか物理的な資産を持った会社を買おうということではなくて、ARMの設計能力ですね。ARMの設計能力、将来継続して生み出していくことのできるあろう、新しい技術を毎年毎年新たに作り出していける、そのプラットフォームを持ってるというのがARMの本質的価値だと思いますね。 それは、FacebookとかAmazonとかGoogleが大きな資産は持ってない。でも、その分野で圧倒的世界一の会社であれば、その収益を継続して伸ばしていけると。 Facebookの時価総額のなかで、純資産はほとんどないと。ほとんどがのれん、Goodwillだと思ってますけれども。それと似たような状況がARMだと考えています。 記者6 2月の自己株買い5,000億円の時に、有利子負債を増やさずに、資産の一部売却でやるとおっしゃっておられました。それは6月のアリババの株売却のことかと思っていたんですが、今回のこのディールによって、この5,000億円の自己株買いの資産手当てという問題がまだ残ってると思うんですが。これは引き続き資産の一部売却を今後行うという理解でいいんでしょうか? 孫 ソフトバンクの過去の20年間を見ていただくと、ソフトバンクは適度な段階で適度に資産の一部売却をしたり新たな投資をずっと繰り返して行ってきてるわけですね。ですから、それは常にある程度のものはあると。でも新しい投資も行うということで。バランスを見ながらいろんなことをやっていくと。 我々は今すぐなにかを売らなきゃいけないという状況でもないし。先ほど言いました、純有利子負債がEBITDAに対するマルチプルも、私は非常に健全なレベルにあると思ってますので。 自社株買いは一部資産の売却によって賄われたということでもありますし。また、今回の投資も手元現金と今回の一部資産の売却、Supercellとかアリババとか含めた部分が、ガンホーも含めて、それらが資金の大半として使われたと考えています。 記者6 最後に確認ですけれども。2兆円の現金化があったから今回の3.3兆円をやるのか、3.3兆円のために2兆円をやったのか、ちょっと順番がわからないんですけれども。 孫 まあ、両方ですね。 記者6 ありがとうございます。
ソフトバンクとARMのシナジー
記者7 朝日新聞です。2点お願いします。まずARMの価値、すばらしさについて説明を聞いてよく理解したんですけれども。ソフトバンクの技術とのシナジーについてもう少しわかりやすくご説明いただければと思います。これが1点目です。 2点目ですが、先日の株主総会で、孫社長、2040年には、1人1,000台の、ネットにつながったチップを持つ時代が来るとお話になっておられましたが。 IoTが本格化する時代というのは、2040年を想定されておられるのか、それより前に来ると見られているのか? その時点でARMはソフトバンクグループにおいて、どの程度のウェイトを持つ企業になっているとお考えでしょうか? 2点お願いします。 孫 まずシナジーですけれども。ソフトバンクはインターネットのインフラを提供しています。ARMの製品がInternet of Thingsということで、あらゆるものにARMが入っていくということは、ARMがインターネットにつながるときにインターネットのインフラを使うわけなので。 少なくとも日本とかアメリカで我々が、Internet of Thingsがインターネットにつながるときに、ソフトバンクが持ってる通信のインフラとARMのチップが内蔵された製品は、お互いにシナジーを持ってつながりあうことになると、私は考えております。 またARMはチップの設計だけではなくて、先ほど言いましたように、セキュリティとか、そういうものもいろいろと提供しておりますので、そういうサービス部分とソフトバンクグループのサービス部分が、なんらかのシナジーを将来的には持つことがあるかもしれないと。 これはまだ具体的なビジネスのモデルだとか内容に入ってるわけではなくて。将来いろんなそういう可能性がありうるというレベルだと、今の時点では思います。 で、私は先ほどから言ってますように、パラダイム・シフトのたびにその入口で投資をしてるんですね。 最初の時に、インターネットに我々がパラダイム・シフトで投資する時に、それまでソフトバンクの既存のビジネスとインターネットがどれほどシナジーがあるかというと、当時は「ほとんどシナジーないじゃないか」と多くの人は思いました。 これが、インターネットからモバイルインターネットになるという時に、携帯の会社を買うと。「携帯会社とソフトバンクのどこにシナジーがあるんだ?」と多くの人から聞かれましたけれども。いくら説明しても当時は話の9割は理解してもらえなかったと。 今回は、同じようにパラダイム・シフトですから。継続的な延長ではなくて、大きな段階がバーンと跳ね上がるところにありますので、どれほど直接的なシナジーがあるかというとわかりにくいかもしれませんけれども。 あとで振り返ってみると、非常に理にかなった投資であったと、トータルのシナジーが出し合えるというふうになると思いますが。これは今日明日、今すぐ突然いくらという金額で現れるというものではないと考えています。 ですから、シナジーはあるけれども今すぐではないと。長期的に見れば非常にあると、そういう内容のものではないかと思います。これがシナジーのところで。
30年後のIoTはどうなる?
もう1つ質問……なに言ってましたかね? 記者7 IoTが本格的に訪れる時代、時期はどの程度かと、その時点におけるARMのウェイトというもの。 孫 これは、ある日突然、All or Nothingではなくて、徐々に徐々にますます広がっていくということだと思うんですね。パソコンの最初の始まりもそうでした。インターネットの始まりもそうでした。 つまり、今から3年後~5年後には、どんどんいろんなものがインターネットにつながっていくと思いますし。 今もうすでに、パソコンもインターネットにつながってますが、スマホもインターネットにつながってるし、自動車も一部インターネットにつながってます。一部家電もインターネットにつながってる。 でも、これはこれからやってくるIoTの時代からいうと、まだ2、3パーセントつながってるということにすぎない。これから何十倍も何百倍もつながっていくと。つまり、1人あたり世界で平均2台くらいがインターネットにつながっていると。 だとすると、私は30年後には、1人の人間が持ち歩くのではなくて、1人の人間に換算すると、1,000個くらいがつながると。これは持ち歩くというものだけではなくて、例えば道路にある電柱も全部インターネットにつながると思いますし、街灯もつながるし、街の中のありとあらゆるものがつながると。 産業用のジェットエンジンも自動車のエンジンも、ありとあらゆるものがつながっていくと。30年経ってみると、おそろしくつながっていると。 ある日突然くるのではなくて、二次曲線で急激に広がっていくと。こういうものだと思っております。ほかに質問はありますか?
ARMの中長期的な戦略に深く関わっていく
記者8 日本経済新聞のスギモトです。大きく分けて2つお願いします。1つ目は、今回の買収ですが、パラダイムシフトの入り口で大きな賭けをしてきたと。新しいパラダイムシフトの入り口に立った上での買収だと思うんですけど、過去のモバイルインターネットを手にした時、あるいはブロードバンドに参入した時、事業資産としてではなく、孫社長自ら手がけていたと思うんですけど、今回は投資資産としてやられるんでしょうか? であれば、なぜ孫さんが事業家人生を賭ける買収にタッチしていかれないのか、事業資産である場合、独立性を保ちながらどうやってマネジメントするのか。それが1つです。 2つ目は、先ほど説明のあった、通信インフラとチップの間をシナジーでつないでいくということですが、これからIoTビジネスが次のソフトバンクが挑戦する大きなテーマになると受け取ったんですけれども、当面そのシナジーをつないでいくなかで、どのようなことを仕掛けていかないといけないのか。 M&Aだったり、ARMの改革であったり、今あるソフトバンクとの連携だったり、いろいろ考えられると思うんですけれども、当面どのようなことが必要になるのか。2つお願いします。 孫 基本的に、私がARMそのものを立て直さなきゃいけないようなものはなにもないと。ボーダフォン・ジャパンのときは、沈みゆく船という状況でしたし、ブロードバンドはゼロから立ち上げないといけないということでした。 スプリントも赤字で非常に苦しんでいたというと状況でしたので、私自身が自ら、毎日そこに陣頭指揮で、日々のオペレーションまで深く口出しをして、会社を作り直す、あるいは作り始めるということをやらなきゃいけなかったわけですけれども、幸い今回のARMは、もうすでにパソコン以外ではCPUで圧倒的にNO.1のポジションを持っていますし、黒字ですし、現在のマネジメントは非常に有能で、成功していると。 ですから、毎日のオペレーションに直接関わって作り直すとか、立て直す必要はないと思っています。 ただし、中期的・長期的な戦略については、私自身ARMの経営陣と一緒に深く深く関わって、彼らと一緒に中長期のビジョン、中長期の戦略については、しっかりと議論をし、彼らを補佐し、彼らを鼓舞し、彼らに対し、より積極的な投資の後押しをするということを行いたい。 それから新たなビジネスモデルとして追加していく機能、これが出てくるんじゃないかと思うんですね。その追加して行われていくような部分については、私自身もどんどん関わっていきたいと。 具体的な例で言うと、アリババの時がそうだったんですね。優れたジャック・マー。そして、彼を慕ってサポートしている経営陣がいました。 彼らは優れたBtoBの事業をすでに行ってたわけですね。そこに我々が投資をし、筆頭株主になって支援しましたけれども、そこから3年ぐらい経って、BtoC、CtoCの「淘宝(タオバオ)」を始めるべきだということで、私自身ジャック・マーたちにそこを提案し、資金の応援も自ら買って出て、中長期的な戦略については非常に深く関わりました。 ですから今日のアリババの成功は、非常に喜ばしい成功事例だと思いますけども、ソフトバンクとして我々は、資金だけではなくて、戦略の部分にも一緒に関わったと。 ですから今回のARMについても我々は、成長のための資金的支援に加えて、長期的な戦略について、私自身もARMの経営陣と共に深く関わってこれを実現させていきたい。私の人生にとってはもっともエキサイティングな発表が今日の発表だというのは、そういう意味で強く思っているということです。
シンギュラリティのカギになるのがARMのチップ
記者9 フリーランスのイシカワと申します。よろしくお願いします。孫さんはことあるごとにシンギュラリティの話をされてますけれども、今回の買収は加速する上のための買収だと? 孫 最後のほうよく聞こえませんでしたけれども、シンギュラリティの話というのは、先ほどちょっとプレゼンのなかでも言いましたように、僕が19歳の時に初めてチップの拡大写真に出会って、その時にすでに僕は、シンギュラリティの時代が来るというふうに感じて涙を流したんです。 シンギュラリティという言葉はその当時なかったんですけれども、考え方はシンギュラリティそのものだったわけです。 ですから、僕が最初にチップの写真に出会ったその日から、シンギュラリティの時代が来るということを僕は強く信じていて、そのシンギュラリティがいよいよ本当に、これから本格的にやってくると。 今世紀中のなかでもとくに、この10年、20年、30年というのは、シンギュラリティのまさにさまざまな部分で人間の知性をコンピュータが超えていく。 そのなかでARMのチップがありとあらゆるものにこれから入っていって、これらが多くのビッグデータを提供し、このビッグデータが人工知能に対しデータを供給する。この供給されたデータがシンギュラリティとして人工知能をより高度なレベルの知性に持っていくということになると思いますけれども、その決定的なカギになるのが、ARMのチップだというふうに私は思っています。 記者9 ありがとうございました。