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 第155回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞に村田沙耶香(さやか)さん(36)の「コンビニ人間」(文学界6月号)、直木賞に荻原(おぎわら)浩さん(60)の「海の見える理髪店」(集英社)が選ばれた。副賞は各100万円。贈呈式は8月下旬、東京都内で開かれる。

 村田さんは1979年生まれ、千葉県印西市出身。玉川大文学部卒。2003年、「授乳」で群像新人文学賞優秀作に選ばれ、デビューした。09年に「ギンイロノウタ」で野間文芸新人賞、13年に「しろいろの街の、その骨の体温の」で三島由紀夫賞を受賞。昨年には「消滅世界」で性交や家族が過去の遺物になりつつある世界を描き、話題を呼んだ。新鋭というよりは、中堅作家に近い存在感を放ちつつある作家だが、芥川賞は今回が初ノミネートだった。

 受賞作は、自身も長年アルバイトをしているコンビニエンスストアを題材にした。主人公は、コンビニで仕事をしている時だけ自身の存在意義を感じられる30代の女性。世間の基準に照らして普通とみなされないものを疎外してしまう社会の偏狭さと、その枠からはみ出しながらも生きる人間の強さを、独特のユーモアにくるんで描いた。

 村田さんは「奇跡のような感じ。まだ信じられず、ふわふわしています」。この日も昼間はコンビニでアルバイトをしていた。今後も続けるのか、と問われて「店長と相談します」と答えて会場を沸かせた。

 選考委員の川上弘美さんは「主人公だけでなく、まわりの人間を活写することで、一見異常に見える主人公の描写が『普通』の人たちへの批判になっている。ユーモアがあり、今でなければ書けない優れた作品」と話した。

 荻原さんは56年、埼玉県生まれ。大学卒業後、広告会社のコピーライターに。仕事をしながら小説を書き、97年に小説すばる新人賞を受賞し「オロロ畑でつかまえて」でデビュー。05年、若年認知症を描く「明日(あした)の記憶」が山本周五郎賞を受け、渡辺謙主演で映画化された。深刻なテーマに向き合いつつ、ユーモアを交える作風を持つ。直木賞候補は5回目だった。

 受賞作は、家族と時をテーマにした短編集。罪を犯した父と、その息子。飲酒運転の車にはねられ、娘を亡くした夫婦。非情な出来事に向き合う家族にやってくる時の経過や大切な一瞬を、温かな筆致で描いた。

 荻原さんは「ほっとしています。明日もまた書こうと思います」と語った。

 選考委員の宮部みゆきさんは「圧倒的な読み心地の良さがあり、一つ一つの作品が心に残る。ベテランの熟練の仕事に心を打たれた」と述べた。

■選考委員一覧

【芥川賞】小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美

【直木賞】浅田次郎、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆき

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