大谷剛(おおたに・たけし) 兵庫県立大学名誉教授(動物学)
兵庫県立大学名誉教授、神戸女学院大学非常勤講師。1947年、福島県生まれ。東京農業大学卒業後、北大大学院に進み、(有)栗林自然写真研究所、(財)東京動物園協会を経て、兵庫県立人と自然の博物館と兵庫県立大学を2013年に定年退職。専門は昆虫行動学。『ミツバチ』(偕成社)、『昆虫のふしぎ─色と形のひみつ』(あかね書房)、『昆虫─大きくなれない擬態者たち』(農文協)など。
テーマ動物の足の数の謎を解く
進化をたどりつつ足数の必然性を考える
私たちは「直立二足歩行」なので、動物園などで直立してよちよち歩くペンギン類を見ると、妙に親近感を抱いてしまう。しかし、動物園で見かける大半の「動物」は「四つ足」(よつあし)という言葉があるように4本足で歩くのが基本である。昆虫は6本足、クモは8本足だ。へびのように足がない動物もいる。なぜこんな風に足の数が違うのか。進化の道筋を考えながら推理してみたい。
まず、4本足を脊椎(せきつい)動物の進化史から考えてみよう。脊椎動物には、無顎(むがく)類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬(は)虫類、鳥類、哺(ほ)乳類の7つの綱に分けることが多い。前の3綱を魚類、後の4綱を四足動物とまとめることが出来る。
水中を泳ぎ回る魚類に足は不必要だが、不活発で海底をのそのそ鰭(ひれ)で歩くグループがいる。総鰭類(そうきるい)と呼ばれ、硬骨魚類の綱に入っている。その子孫が生きた化石として有名なシーラカンスだ。
この仲間の先祖がときどき水が干上がる環境にすんでいたと想定する。水中の時は浮力が働くが、干上がると、もろに鰭に体重がかかってくる。水たまりに急いで戻るには、鰭に多大な圧力がかかる。魚類には胸鰭・腹鰭・尻鰭・尾鰭があるが、尾鰭は水中での推進力を生み出すものなので、「歩く」力にはなりにくい。尻鰭は尾鰭の補助的役割を担っているので、これも外す。海底に近いところに生えている胸鰭と腹鰭が「歩く」足の候補だ。4鰭あれば、4点支持で立つことが可能である。3点支持しておいて、余った1点を前に進めると、「歩く」ことができる。
魚類を「0」足としよう。3点で平面が決まることを考えると(三脚をイメージして下さい)、最初の足は四足となるしかない。「0→4」への足の進化である。鰭の数からいけば、6足も8足も可能であるが、4足で事足りるので、それ以上の余分の足は「蛇足」というものだ。だから、足の数の進化は4でストップした。
ヘビ類は土中かそれに近い環境で、背骨をくねらせることで、推進力を得たので足が不用になった。クジラ類は水の環境に再侵入したことで、足が不要になった。いずれも「4→0」と進化(退化)した。モグラ類は、前足を強化して土を掘り進み、退化の道をたどらなかった。
鳥類は前足を翼に改造しているので、2本足で歩く。「4→2」の変化(進化)なので、4本足の亜流とみればよい。
では、昆虫はどうだろうか。
ざっと100万種はいる昆虫は例外なく6本足である。最近のDNAの研究成果では、昆虫類は
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