統合失調症の治療薬「ゼプリオン」を使った患者85人が、発売から2年あまりで死亡していることが、NPO法人地域精神保健福祉機構の発表でわかった。
ゼプリオンは2013年に製薬会社のヤンセンファーマから発売された注射薬。4週間に1回打つだけで効果が持続し、販売実績から現在、月に1万2千人が使用しているという。
「飲み忘れがある飲み薬と比べ、注射薬は当事者からすれば利点の大きい薬です。不安を抱えながら薬を使い続ける当事者のためにも、原因究明してほしい」
そう訴えるのは、機構の宇田川健共同代表だ。発表以来、機構には数十件の問い合わせがあったという。
実はこの薬、市販直後の6カ月調査で32の死亡例が報告されている。死因は自殺や心筋梗塞、がんなどさまざまだった。
厚生労働省は14年4月、ゼプリオンに関する安全性速報の発出を企業に指示。だが、15年6月末の段階で死亡例は71例に。
同社は状況報告と適正使用を求めるリリースを医療機関に配布した。統合失調症の患者を診るひだクリニック(千葉県流山市)の肥田裕久院長は言う。
「ゼプリオンが特に危ない薬という認識はありませんし、当院の患者も静観しています。ただ、使用中に亡くなった方がいるのは事実。製薬企業の責任として、使用人数や原因についてもっと積極的に情報を開示すべきです」
肥田院長によると、1回の注射で4週間効果が持続するが、一方で万が一副作用が生じてもその期間、体内から薬の成分が抜けないことになる。
「薬の処方は医師の裁量に任されています。医師は適正な使用を常に考えながら治療をする必要があるでしょう」(肥田院長)
ゼプリオンの使用について、日本精神神経学会の薬事委員長で北里大学東病院の宮岡等院長は「今回の対応についてはすでに薬事委員会で審議を始めている」という。
ヤンセンファーマの広報担当者は本誌の取材に、
「死亡報告数の多寡は判断いたしかねますが、14年6月までと比べると死亡報告率は2分の1から3分の1に減っています。現在、1千例以上の症例が登録された『長期特定使用成績調査』を実施中で、最終結果は18年になりますが、16年末には中間結果の公表も検討しています」
と回答。ただ、機構は「実態を掴むには全例調査が必要」と要望している。
こういう問題でつらい目に遭うのは患者やその家族だ。一刻も早い真相究明が待たれる。(本誌・鳴澤 大、太田サトル、山内リカ、秦 正理、吉﨑洋夫/岸本貞司、韓国在住ジャーナリスト・菅野朋子)
※週刊朝日 2016年7月22日号
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