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残業が減らないのは家に帰りたくないから

昭和から続く「悪しき伝統」の真実

2016年7月19日(火)

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 まず、「出世には残業が必須」と考えている社員を減らすには、経営層がその事実を明確に否定し、かつ、残業時間と昇進が連動するメカニズムを検証、改善する必要がある。場合によっては、無駄な残業をしている社員の評価を大きく引き下げてもいい(残業と昇進を負の相関関係にする)。

 「パソコンは原則、終業時間にシャットダウン」「会議は立って短時間で終了」。そんな大胆な生産性向上策で知られるキヤノン電子の酒巻久社長は「定時で帰れないのは能力が低い証拠」と断言する。

 だが、ここまでしても、出世にも収入増にも関心がなく「帰ってもろくなことがない」との理由で残業をやめない社員を突き動かすのは難しい。理屈の上では、帰ったら楽しいことがあるように会社が支援する手があるが、現実的には難しい。よほど強硬なものならともかく、強制消灯も残業削減奨励策も、彼らの前では無力であることは既に指摘した。

 「だったら、そんな社員はもう放っておけばいい。どうせ残業代は出さないのだから経営に大きなダメージはない」という考え方もある。

 が、それはコンプライアンス(法令順守)上、問題が発生する可能性が高い。

 「万一残業の未払い問題や過労死が発生した際、『社員が勝手に働いた』という反論は通用する可能性が低い。残業代を支払ったり、事件が報道され風評被害を受けたりするリスクは免れない」。労務問題に詳しい法律事務所アルシエンの竹花元・弁護士はこう警鐘を鳴らす。

 やはり、企業は社員に自発的に帰宅してもらうしかない。そのための数少ない方法がこれだ。

①残業を申告制にする
②申告の手続きを、「家に帰る苦痛」より、大幅に物理的・心理的苦痛を伴うものとする

 日本の産業界には、この“最終手段”で成果を上げた経営者がいる。元トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長で、元祖・残業削減のプロ、吉越浩一郎氏だ。1992年に同社社長に就任後、19期連続増収増益を達成した吉越氏。それを支えたのは徹底的な生産性向上で、その柱をなしたのが「残業ゼロ」だった。

 就任当初は、定時になると自ら社内中を消灯して回り、社員を追い出していた。が、一部の社員は会社に戻って電気をつけ、仕事をしてしまう。らちが明かないと感じた吉越氏が導入したのが残業申告制だった。

 「どうしても残業しなければならない場合は許可するが、その代わり、残業した社員には徹底した反省会とリポート提出をしてもらう」。これが仕組みの骨子。申告制自体は既に導入している企業も多いが、トリンプで特徴的だったのは反省会とリポートだ。

リポートを延々と突き返す

 反省会は、残業した翌日から同じ理由で残業が絶対に起きないよう何回でも開かせる。さらに「なぜ、残業をしなければならなかったのか」「どうしたら残業をせずに済むか」について、再発防止策を詳しく書いたリポートの提出も義務付けた。

 リポートは1回書いて終わりではない。繰り返し添削して、内容的に大した問題がなくても何度も突き返した。何度も、何度も、だ。反省会とリポートで業務に支障が出ても、意に介さなかった。

 社員の中には「理不尽な仕組みだ」「社長はおかしい」と怒り出す者もいたが、そうこうしているうちに少しずつ「こんな大変な思いをするなら、自分の仕事の進め方やプライベートの過ごし方を本気で見直し、残業のない生活をした方が楽だ」と考える社員が増えていったという。

 「残業したらどんな苦難が待ち受けるか身をもって知った社員たちは、定時までに業務を終わらせようと、必死で仕事をするようになった。無駄口をたたく社員は減り、就業時間中のオフィスがすっかり静かになった」。吉越氏はこう振り返る。

 昭和の時代から続く悪しき伝統「無駄な残業」を退治するためには、生半可な対策では不十分だ。

 日本人は皆、家に帰りたくない──。そのぐらい大胆な前提に立って、本気で対策を練らないと残業は減ることなく、日本企業の生産性は永遠に上がらない。

(日経ビジネス2016年5月16日号より転載)

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「残業が減らないのは家に帰りたくないから」の著者

宇賀神 宰司

宇賀神 宰司(うがじん・さいじ)

日経ビジネス記者

日経クリック、日経ベンチャー(現・トップリーダー編集などを経て、2007年1月から日経ビジネス編集記者。流通、中小ベンチャー、マネジメント、IT(情報技術)を担当する。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

西 雄大

西 雄大(にし・たけひろ)

日経ビジネス記者

2002年同志社大学経済学部卒業。同年、日経BP社に入社。日経情報ストラテジー、日本経済新聞社出向、日経コンピュータ編集部を経て、2013年1月から日経ビジネス編集部記者。電機、ネットなどを担当する。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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