田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
文芸評論家の斎藤美奈子氏による日本のリベラルや左派に向けての痛烈な批判が話題になっている。最近の参議院選や、東京都知事選の候補者選びなどの出来事を見たうえで、斎藤氏は「というわけで、私はもう日本の左派リベラルには何の期待もしないし、野党連合も応援しない。日本の民主主義は今日、死んだ、と思った。たいへん残念です」と書いた(「web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第五十二回」)。
リベラルや左派だけが日本の民主主義を支えているわけではない。しかし斎藤氏のこの主張には深く同意する部分がある。
立命館大学教授の松尾匡氏の『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)は、欧米におけるリベラル・左派の経済政策や経済観が、日本のリベラルや左派と大きく異なることを指摘している。
欧米の保守は財政再建を目的とする緊縮政策や規制緩和・民営化が中心であるのに対して、リベラル・左派は積極的な財政政策や金融緩和政策で経済全体を成長させて、その上で再分配を強力にすすめるものである。
それに対して、日本のリベラルと左派は、そもそも経済政策を重視するにしても、優先順位は憲法問題に比べて極めて低いか事実上無視している。アベノミクスは批判するけれども、対抗して提起されている政策は「自分たちの認める形で再分配するならば消費増税も認める」という、財務省の思惑(消費増税主義)におんぶにだっこした代物である。このような消費増税主義は、財政再建という美名がついているが、経済理論的にもまた実証的にも支持できないトンデモ理論である。
ブラウン大学教授のマーク・ブライス氏は、財政再建などを目的とした緊縮政策が、「完全に、そしてまったく間違っていることだ」(『緊縮策という病』(NTT出版))と、200年以上の経済思想と政策の歴史を検証して断言している。実際、アベノミクスに大きなブレーキがかかったのは、消費増税を実行してからである。このように日本のリベラルと左派にはまともな代案はない。