新シルクロードというと、砂漠を行くキャラバン、古代の船、珍しい物資の貿易など、ロマンチックで平和なイメージをほうふつとさせるのではないだろうか。しかし中国の壮大な計画――中央アジアを横断し、東南アジアを取り囲む鉄道、高速道路、パイプライン、港をつなぐネットワークを建設する――は、インド政府の懸念材料となっている。
3488キロの国境を共有する中国とインドにとって、国境紛争問題は未解決のままだ。インドの戦略政策アナリストの間では、中国の新シルクロード構想がインドにとって戦略的、経済的脅威なのか、それとも好機なのかで意見が割れている。中国が一帯一路と呼ぶこの構想は、慎重に誘導されなければならないとみているアナリストが多い。なぜなら中国政府が大規模プロジェクトを展開する国々は、インドが昔から自らの影響力があるとみていたエリアだからだ。しかし、インド政府には信頼性のある代案を提示するための財力がない。
「インド政府は中国に関する発言にはとても慎重で、一帯一路構想に反対して強気に出る覚悟ができていない。だが中国の既成事実としてこの構想がまとめられることに不服の場合、腕組みをしてじっと構え、この構想の不支持を明確にしている」と話すのは英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員シャシャンク・ジョシ氏。
「多くのアジア近隣の小国は、この構想を巨額な中国資金が流れるための良い機会と見ている。同様の資金提供ができないインドは、そのような構想に対して表面上敵意を示しているように見られるわけにはいかない」と同氏は続けた。
■「真珠の首飾り」戦略の“再包装”
インド民間政策研究センターで戦略研究を専門とするブラーマ・チェラニー教授は、中国の新シルクロード構想をより無難な言葉で表現すると、中国のいわゆる「真珠の首飾り」戦略を再包装したものだと言う。インドは中国が同戦略を通じ、戦略的にインドを包囲しようとしていると見る。
「真珠の首飾り」戦略は、南アジアの港への中国投資が、海外に海軍基地を開発する前ぶれだというもの。例えば、中国はすでにスリランカのハンバントタに大規模な港を建設した。この港は、世界でも最も往来の多い石油輸送路の一つとなっている重要な海上交通路を見下ろし、インドが自身の防衛上、戦略的に重要だと考えている場所だ。
2014年に中国の潜水艦がコロンボの港に寄港した際には、これが経済的な目的ではなく軍事目的なのではないかという恐れが強まった。中国はバングラデシュとミャンマーの港にも投資を計画しているが、これらの港が二重の目的を果たすのではないかと懸念されている。
チェラニー教授は「新シルクロード構想は、中国政府が遂行してきた戦略に新しく付けられた立派な名前にすぎない」と話し、「中国はその戦略を、より害のない言葉で包み込んだ。中国の理想はアジアで優位に立つことで、この構想はその理想の核心に迫るものだ」と続けた。