政府の経済対策 公共事業をふかすのか
参院選勝利を受け、安倍晋三首相は経済対策の策定を指示した。補正予算案を秋の臨時国会に提出する。
事業規模は10兆円超と大型対策にする方針だ。首相は「アベノミクスのエンジンを最大にふかす」と強調してきたが、規模優先で旧来型の公共事業が目立つ。
まず疑問なのは対策の必要性だ。
首相は「世界経済の不透明感が増しており、内需を下支えする必要がある」と説明する。英国の欧州連合(EU)離脱問題が大幅な株安・円高を招いたことが背景にある。
だが、市場は徐々に落ち着きを取り戻している。リーマン・ショックのような危機にも発展していない。
参院選で首相は「有効求人倍率が初めて全都道府県で1倍を超えた」とアベノミクスの成果を訴えた。景気認識が矛盾するのではないか。
政府が過去3年間に行った経済対策(補正予算)の規模は3兆〜5兆円程度だ。景気が大きく悪化したわけでもないのに、一気に膨らませるのはなぜか。説得力に乏しい。
首相は対策の狙いを「未来の成長の種に大胆に投資する」と語り、子育て支援など1億総活躍社会実現への施策も盛り込むよう指示した。
少子化対策が進めば、国内市場の縮小を食い止める効果も期待できる。ただ、対策の多くは公共事業だ。
訪日客拡大へ大型船用の港湾を整備する。農産物の輸出基地を全国に設置する。国が借りた資金を民間事業などに投じる財政投融資(財投)も活用し、リニア中央新幹線の大阪延伸を前倒しする。整備新幹線建設も加速する。どこまで成長に結びつくかは、はっきりしない。
安倍政権のこれまでの経済対策は、国土強靱(きょうじん)化をうたった公共事業や、商品券が発行できる自治体向け交付金が柱だった。だが、景気の一時的押し上げにとどまった。今回も成長戦略に名を借りたばらまきに終わる恐れがある。
財源も乏しく、政府は国債を追加発行する方針だ。一時的な景気刺激にとどまれば、借金が積み上がるだけだ。消費増税も先送りし、新たな借金を抱える余裕はないはずだ。
財投の活用も財源不足のためだ。だが、財投は、民間金融機関が手を出さない無駄な事業に国の資金をつぎ込んでしまう恐れがある。規模を縮小する改革が行われてきたが、拡大すれば、改革に逆行する。
参院選で政権基盤は強化された。目先の景気てこ入れではなく、日本経済を息の長い成長に導くような政策に腰を据えて取り組む好機だ。
少子化対策もその一つだが、公共事業に大盤振る舞いすれば中途半端になりかねない。「未来への投資」が必要なのはこの分野のはずだ。