2016年8月、東京大学がある本郷三丁目で、技術系インキュベーション『#NestHongo』が本格始動する。『#NestHongo』を運営するのは、独立系ベンチャーキャピタルANRI。
ANRIは、『#NestHongo』を開始するにあたり、東大・技術研究者出身の新メンバーがジョインした。その人物こそが、鮫島昌弘氏だ。
鮫島氏は、2006年東京大学理学部天文学科卒業後、2008年東京大学大学院理学系研究科天文学修士を経て、三菱商事株式会社に入社。その後、東京大学が承認する技術移転関連事業者としてベンチャー投資を行う、東京大学エッジキャピタル(UTEC)に参画。アグリ・バイオ、フィジカル・サイエンス分野などのシード/アーリーステージのベンチャー投資業務を担当。
ANRIでは鮫島氏とタッグを組み、本郷三丁目に技術系インキュベーション施設『#NestHongo』を設立。そして、技術シーズの事業化を支援する「ANRI #NestHongo Program」を開始することになった。
今回、Pedia Newsでは、ANRIの佐俣アンリ氏と鮫島昌弘氏に、『#NestHongo』を始めた経緯と今後について、インタビューを実施した。
技術系インキュベーション『#NestHongo』始動
「未来をつくろう。圧倒的な未来を。」それがANRIのキャッチフレーズだ。そのANRIが、東大・技術研究者出身の鮫島氏と共に、新たな取り組みとして、技術系インキュベーション『#NestHongo』をはじめた。
ANRIが『#NestHongo』をはじめた理由
これまで、6年間、インターネット系のベンチャーキャピタルとして活動してきました。その中で、去年(2015年)の後半から「今後インターネットの分野だけに投資支援していくべきか」を考えていました。その大きな理由として、一つは「本当に1,000億円を超える会社を作れるか」、もう一つは「シリコンバレーを含めたスタートアップのトレンド」の二つがあります。米国では、スタンフォードのStartXをはじめ、技術シーズに対する投資支援が積極的に行われていますが、日本国内ではまだチャレンジしきれていないので、ANRIとして取り組みたいと思いました。(佐俣氏)
「1,000億円を超える会社を作る」
一つ目については、スタートアップで1,000億円を超えるものは3タイプと考えています。①骨太な組織を作って上場してゲームに代表されるビックトレンドを当てるパターン(例:グリー、ミクシィ)、②SaaS・エンタープライズビジネスで、売上を積み上げていくパターン(例:エムスリー、MonotaRO)、③技術をベースにレバレッジをかけて課題解決していくパターン(例:ユーグレナ、サイバーダイン)。
この3タイプがある時に「自分がベンチャーキャピタリストとして貢献できることは何だろうか」と考えました。①タイプは骨太な組織を作った上で偶然性の要素が強い、②タイプは今まさにラクスルやコイニーで挑戦している。そうすると、次にANRIが1,000億円を超える会社を作るためにやるべきことは、③タイプの技術シーズへの投資だと思いました。(佐俣氏)
「インターネットのイノベーションは終わりつつある」
二つ目については、2015年初頭にユニオンスクエアベンチャーズの著名投資家であるフレッド・ウィルソン氏の「インターネットのイノベーションは終わりつつある」という発言が印象に残っていました。彼自身も、2014年以降、創薬をはじめ、インターネット分野とは異なるものに投資しています。
「世界にインパクトを与える、スタートアップへ投資する」ことを考えると、今後はインターネット分野以外にも積極的に投資していきたいと思いました。ANRIでは、スマートドライブ、ラクスル、ハコスコのような会社に投資していますが、確かに、インターネットのみのスタートアップかというと必ずしもそうではないと感じています。(佐俣氏)
東大・技術研究者出身の鮫島氏がANRIへジョイン
そう語る佐俣氏は、今回、『#NestHongo』をはじめるにあたって、ANRIに新たなメンバーとして鮫島昌弘氏を迎え入れた。
佐俣氏と鮫島氏の出会いは、学生時代にさかのぼる。佐俣氏によれば、鮫島氏は、当時技術研究に没頭しており、技術オタクで典型的な東大生だったという。卒業後、鮫島氏は、三菱商事に入社するが、30歳を迎えた際に、学生時代からの「基礎技術の実用化」に携わりたいという強い想いからベンチャーキャピタル業界の道へたどり着く。
「基礎技術の実用化」
学生時代に、スタンフォードやUCバークレーなどの研究室を見学しました。「基礎技術をもとに、ベンチャーが生まれて、それがまた研究として、次の技術にも繋がる」そこで、その過程を目の当たりにしました。「技術を世の中に出す」「基礎技術の実用化」それが非常におもしろいと思いました。
UTECでは、技術系ベンチャーの投資を担当しました。また、東京大学が主催する起業養成講座でメンターも担当しました。その中で、二つの気づきがありました。(鮫島氏)
技術系ベンチャーのエコシステムを創出
一つは、技術系シーズを会社化するまでの生みの苦しみに対するサポートが充実すれば、技術系ベンチャーのエコシステムが拡充するのではないか、というものです。実際に学生と話をしてみると、「技術シーズを会社化するまでにはどうしても距離がある」と思いました。(鮫島氏)
10年前と今の東大生では「ベンチャーに対する見方」が変わった
もう一つは、大学生の中の変化です。僕は、2006年に東大理学部を卒業していて、今年で学部を卒業してから丸10年経ちました。その10年間で、ユーグレナの出雲さんやグノシーの福島さんが上場なさって、東大から若手理系出身者のヒーローが輩出されてきたと感じています。その甲斐もあって、10年前の東大生のベンチャーの見方と今の東大生のベンチャーの見方が変わってきていると感じています。もちろん、依然として東大生の大部分が大企業に行くとは思いますが、少しずつ集計では出てこないような、大学生の中の気持ちの変化がベンチャーに対してあると思っています。(鮫島氏)
東大・赤門前、技術系インキュベーション『#NestHongo』が誕生
そして、佐俣氏と鮫島氏は意気投合し、技術系インキュベーション『#NestHongo』の開始に至った。
『#NestHongo』があるのは、東大の象徴とでも言われる赤門の目の前。東大生にとってはアクセスしやすい、非常に好立地な場所だ。
ベンチャーに興味ある学生や実際に起業した起業家などが集まる場を作りたいと思いました。場作りはローカル性が強いと考えていて、東大生にとってアクセスしやすいところに場所を作りたいと思い、東大・赤門の向かい側ではじめることにしました。
また、名前の由来は、①ハッシュタグで共有しやすいもの、をベースに、②スタートアップは個人同士が集合体となって作り上げていくもの、また、③最終的にこの場所で成長して巣立つスタートアップが生まれてほしい、という想いからインキュベーション(孵化器)・ネスト(巣)をイメージして「Nest」、そして、④東大・本郷キャンパスの赤門前という場所の特性をいかしたい、という想いから「Hongo」と名付けて『#NestHongo』となりました。(鮫島氏)
現在、『#NestHongo』には、東大スタートアップが2社入居している。彼らとのつながりは、ANRIメンタリングデイと鮫島氏がメンターをつとめた東京大学が主催する起業養成講座だったという。
株式会社科学計算総合研究所は、東京大学協創推進本部(旧:産学連携本部)が主催した第11期アントレプレナー道場で最優秀賞を受賞したメンバーが中心となり、東京大学発の計算科学ベンチャーとして創業。
高性能計算(ハイパフォーマンスコンピューティング、HPC)を得意とし、HPCクラスタ(小型スパコン)による計算資源を提供するサービスや、ウェブブラウザから構造解析が可能なクラウドCAEサービス「Cistr」の開発を行っている。
また、文科省のプロジェクトで開発されたオープンソースの大規模構造解析ソフトウェア「FrontISTR」の商用サポートや特注開発を行うなど、ハードウェアからソフトウェアまで計算科学の多岐にわたる技術を広く提供する。
bitCakeは、世界中の若者が遊べる新しいお財布アプリを目指し、ビットコインの管理アプリを開発するベンチャー企業。
「成し遂げたいのは、お金で世界をつなぐこと。 寄付、お祝い事、励ますべきこと。気持ちが動いても、お金が動かないことがたくさんある。0.01円からでもそっと思いを送ることができたら、人が楽しみながら人を応援できたら、きっと世界は、いい方向に向かうと思う。」それがbitCakeの想いだ。
そして、今回、新たな技術シーズとの出会いの架け橋として、「ANRI #NestHongo Program」の公募を開始した。応募締め切りは2016年8月5日17時まで必着(8月5日以降も継続募集予定)。
「ANRI #NestHongo Program」では、技術シーズをベースにプロトタイプを完成させ、事業化への第一歩を踏み出すことを目指す。活動期間は2〜3カ月を想定。技術シーズには、(1)エナジーハーベスト、(2)IoT(無線通信技術等)、(3)MEMS等を活用した医療・ヘルスケア、(4)仮想通貨、(5)Deep Learning・Big Data Analysis、(6)VR/AR、(7)量子コンピューター・量子アニリング、(8)ゲノム編集、(9)構造計算シミュレーション、(10)スマート農業などを含む。
また、プログラム参加者は、①共同ワーキングスペース、②ANRIチームからのメンタリング、③ANRI投資先とのコネクション、④事業会社、官公庁とのコネクション、⑤弁護士、弁理士、会計士とのコネクション、⑥必要に応じてANRI含むVCからの資金提供、⑦事業化の完成度に応じて研究開発費、⑧事業化の完成度に応じて事業会社からのフィードバックなどの支援を受けられる。
さらに、プログラムの最後には、ANRI投資先や事業会社を招いた発表会を行い、必要であればANRI含むVCからの資金調達を行う予定。最終プロダクト発表会は10月〜11月頃を予定。
プル型とプッシュ型の告知があると考えています。参加しやすいプログラムを用意し、物理的な拠点を設け、コミュニティをつくって巻き込んでいきたいと思っています。グノシーもはじめは研究室からスタートしてビジネスへ転換しました。僕らも#NestHongoで技術シーズの事業化へのきっかけ作りをしていきたい。最初のトライアルなので、手探りな状態ではありますが、様々な活動をしながら、#NestHongoに集まる学生や起業家のニーズに合わせて活動していきたいと考えています。(鮫島氏)
#NestHongoから技術系ベンチャーを世界へ
最後に、今後の『#NestHongo』について、佐俣氏は、
手探りな状態で、どのような形が良いのかは現時点ではわかりきれていないが、「大学だけでは技術シーズの事業化を支援しきれていない」ことを確信しています。もちろん、大学側も数々の支援を行ってはいますが、ユーグレナやグノシーをはじめ、東大だけでは生まれなかったスタートアップがたくさんあると思います。誰もがまだ必ずしも正解を見つけられていない。
また、ここ3〜5年で米国を中心にスタートアップの形が「社会に役立つことをシャープに追求する」ものへ変化していると考えています。最も端的に示しているのが、イーロン・マスク氏だと思います。「壮大なスケールのものを真顔で作っていく、そのスタート地点になりたい」本郷という街と僕らが一体となって、本郷で技術シーズを活用していけば、日本からイーロン・マスク氏を超えるようなスタートアップは作れると思います。
だからこそ、ANRIでは、鮫島氏を中心に#NestHongoを舞台に技術シーズへの支援を進めていきたいと思います。
と説明し、鮫島氏は、
日本の中で一番優秀な人たちは東大を目指すと思うんです。米国は、MIT(マサチューセッツ工科大学)もスタンフォード大学もハーバード大学もあって分散していて、それぞれの大学がある分野に突出しています。一方、日本は、どの分野でも優秀な人が東大に集まりやすい傾向にあります。「多様な分野を融合しながら、優秀な人が一箇所に集まる」それは日本だと東大だと思います。
もちろん、僕らは、東大だけに限定したいわけではありませんが、実際、科研費(科学研究費補助金)にしても、トップの東大が京大の約2倍と大差をつけており、東大で技術シーズの実用化を本気で取り組んで成功しなければ、他ではできないと思います。
#NestHongoを拠点に、技術シーズのスタートアップ支援を本気で取り組んでいきます。
と述べ、東大・本郷キャンパス赤門前の技術インキュベーション#NestHongoを舞台に、技術シーズの実用化を進め、日本から世界に羽ばたく技術系ベンチャーを支援していくと熱意を語った。なお、#NestHongoでは、鮫島氏のサメ(Shark)にちなんでSharkドリンクも楽しめる。
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