「私の人生でハイライトを当てるべき日はまさに今日この日。幸せな私と同じ部屋にいる(記者の)みなさんも幸せ。言い過ぎかも知れないが、そのくらい幸せだ」――。
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英国向けと日本向けで計3時間20分超に及んだ記者会見の間中、ソフトバンクグループ(以下ソフトバンク)の孫正義社長は終始、上機嫌の様子で、目にはいつになく力がこもっていた。
ソフトバンクは、7月18日に英ARM(アーム)ホールディングスを100%買収することでアーム社と合意したと発表した。同日朝に孫社長は、テリーザ・メイ英首相、フィリップ・ハモンド英財務大臣と一対一で話し合ったという。
■ アーム社は半導体の「最上流企業」
「EU離脱や英ポンド下落など混乱の中、英国への積極的な投資をし、英国での雇用を増やし、本社もブランドも残す今回の話は、英国への強い信任の表れで歓迎できる」と英首脳らに言われたそうだ。アーム社の株主総会やイングランドの裁判所の承認を経て、9月末までに買収を完了する予定だ。
アーム社は英国に本社を置く半導体設計会社である。SoC(System on a Chip)と呼ばれる、一つのチップ上にシステムの動作に必要な機能のすべてを実装する設計手法で世界的に有名な企業だ。
同日にロンドンで会見した孫正義社長によれば、スマートフォンの中に入っている半導体の97、98%は同社が設計した半導体。当然のことながら、米アップル社や韓国サムスン電子といったスマホ大手の製品の中に入っている半導体も、アーム社が設計した半導体なのだという。
アーム社の売上高は2015年12月期9.6億ポンド、営業利益は4.0億ポンド。年間で148億個の半導体の設計に関わった。総資産21.2億ポンドに対して純資産17.9億ポンドと好財務の会社である。ロンドン証券取引所に上場していて、ソフトバンクはアーム株の1.42%をすでに所有している。
アーム社への出資を最終的に意思決定したのは約2週間前。トルコにヨットでバカンスに来ていたアーム社のサイモン・セガースCEOをレストランに誘い、「プロポーズした。(アーム社を買収できないかという)一般的な議論は前からあったが、腹を決めたのはこの2週間。ニケシュ・アローラ氏が取締役会に残っていてくれたら、賛同してもらえたと思う」(孫社長)。
■ 「10年前から欲しかった」
買収金額240億ポンド(3.3兆円)は、日本企業による企業買収として過去最大。とはいえ、3月末時点で2.5兆円の現金を保有しているほか、6月に保有株を大量売却したことで2兆円の現金を手にする予定のソフトバンクにとっては、「倒産するほどの金額ではない。高い技術を有するアーム社は10年以上前からほしかった会社。資金に余裕がなくてできなかったが、今回、アリババ株やガンホー(オンライン・エンターテイメント)株、スーパーセル株を売ったことで2兆円の現金が手に入ることになり、アーム社を買えるようになった」(孫社長)。今回、みずほ銀行から1兆円の借り入れをするが、それも1兆円のスーパーセル株売却による資金が8月に入るまでのつなぎ融資だ。
「英国のEU離脱によるポンド安のタイミングを狙ったのではないか」という記者の質問に対して、「ポンドは下がった。株価が軒並み下がる中、アーム社の株は逆に値上がりしている。対米ドルで影響は相殺されている」と孫社長は「EU離脱による英国の混乱に乗じたのでは」との見方を一蹴した。
確かに、6月頭に1000ペンス程度だったアーム株はじりじりと株価を上げ、7月には1200ペンス前後に値上がりしていた(現在は今回の買収予定価格である1700ペンスにはりついている)。
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