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第九話 それは荒らしのように②
フルボッコ覚悟だった。
喧嘩慣れしてるであろう三宅に拳を打ち込んでも、たかが俺ごときの一撃なんて致命傷になるわけがない。
すぐに返り討ちにあってボコボコにされることはわかっていた。
けど、それでも俺はノースキルで突っ込んだ。
エイリが二人に好き放題されるのを見過ごすくらいなら、半殺しにされてでも抗ってやる!
胸の奥底から爆沸する感情に身を任せ、俺は一歩踏み込んで三宅の頬に右ストレートを打ち込んだ。
「いい加減にしろやお前らァァァ!!」
バキンッ!! メキメキィッ!!
「ゴブッ!?」
繰り出した右拳に、肉が潰れた感覚がダイレクトに伝わってきたた。
なにかがへし折れる嫌な音にハッとした時には、三宅は口から血を撒き散らしながら吹っ飛んでいた。
ゴシャゴシャベキィッと、三宅は壁にめり込むようにして衝突し、動かなくなった。
それっきり、ぴくりともしない。
「「「は……?」」」
しん、とあたりが静まり返った。
坂東も、エイリも、ケビンも。
遠巻きに騒ぎを見ていた客たちも、その場にいた誰もが言葉を失った。
俺だって驚いた。
てっきり右ストレートを穿ったところで、ニヤリ、蚊でも止まったか? バキンッ!
みたいな感じで反撃の狼煙を上げられるとばかり思っていたから。
今まで反抗すら諦めていた相手を、たかがワンパンでぶっ飛ばした。
その事実を受け止めるには、俺の頭の処理能力じゃ足りなかった。
拳を突き出したまま、俺はしばし呆然としていた。
「馬鹿なァ!? 三宅はクラスの中でもトップ5に入る防御力の持ち主なんだぞ!?」
目を見開き、信じられないと言ったように喚く坂東の声にハッとなった。
見ると、坂東は殺気に満ちた目で俺を睨みつけてきて、
「クソがァッ!! ぶっ殺してやる!!」
殴りかかってきた。
「うぉっ!?」
単調なストレートパンチだが、ガタイが野球部くらいある三宅の攻撃である。
死亡不可避。
アーメン。
──だが俺は、武を極めた達人のような動きでその攻撃を避けた。
(……え?)
「なにィ!?」
坂東の目が驚愕に染まる。
馬鹿な、俺の攻撃を避けただと!?
そんな顔をしている。
しかしすぐに闘争心を瞳に宿し、
「避けんじゃねェよボケがァ!!」
すぐさま新たな攻撃を繰り出してきた。
しかしその攻撃の軌道が手に取るようにわかった。
回し蹴り。
飛んで回避。
正拳突きもどき。
身体を横にずらす事によって回避。
「クソッ!! なぜだァ!? なぜ当たらねェ!?」
坂東が忌々しそうに声を上げる。
唾を飛ばしながら、滅茶苦茶な攻撃をしてくる。
それらすべてを俺は流れるような動作で避けきった。
(えっと、これは……うん)
マ〇オでいうスター状態(回避全振りver)みたいな事が、自分の身に起こっている。
坂東の攻撃を避けながら、それだけは理解した。
一体なにがどうなってるのかはわからないが、このラッキー現象を活かさない手はない。
俺は、坂東の攻撃を避け続ける事に徹した。
坂東とて人間だ。
こんなに大振りな攻撃を繰り返して疲れないわけがない。
攻撃が当たらないとわかれば息を切らせて、クソッ! 覚えてろよ! と、三下よろしく尻尾を巻いて逃げてくれるはずだと……思っていた時期が僕にもありました。
「ハァッ……クソッ……調子に、乗んじゃ、ねええェェ!!」
ボッ!!
ブチブチにブチ切れ、顔を真っ赤にした坂東が、手のひらに拳大の火の玉を出現させた。
これが坂東のスキルかと察した瞬間、
「燃え尽きやがれェェェ!!」
炎を纏わせた拳をそのまま振りかぶってきた。
俗に言うファイヤパンチだ。
スキルを使ったあからさまな暴虐行為。
しかし、坂東は怒りに我を忘れて理性を飛ばしているらしく、自分の行っている行為の重大さに気づいていないようだ。
目の前のイキがった野郎をぶっ潰す。
赤く充血した目には、そんな強い感情が宿っていた。
「死ねェ!!」
「正気かよおい!?」
これは食らったらマジで洒落になんない!
慌てて、ファイヤパンチも回避
眼前を熱風が通り過ぎ、鼻先を焦げた匂いが掠めた。
その時、
「──!?」
拳から溢れでた火の粉が、木製の床を、ジュッと、小さく焦がした。
その光景を目にした瞬間、ぷつんと、心の中でなにかが切れた。
冷たい感情がサッと頭を過ぎたかと思うと、すぐに身体の奥底から、溶岩のように熱く、抑えきれない激情が爆発した。
──コイツ、絶対許さない!
気がつくと俺は、坂東の手首を力強く掴んでいた。
ミチミチと坂東の手首を潰さんとばかりに、
「おォ……?」
目の前で間抜けた声を漏らす坂東の腹に、
「館内は火気厳禁じゃボケェェェ!!!!」
叫びながら、俺は渾身のアッパーを叩き込んだ。
ドンッと、坂東の腹部を中心に衝撃波が炸裂した。
「ゴハァッ!?」
白目を剥き、ゴポリと口から血を噴出させる坂東。
身体をくの字に曲げる坂東に、俺は間髪入れず拳を連打した。
格ゲーならドドドドドッと効果音が鳴り響きそうな感じだ。
「てめぇなに俺の店燃やしてんだよ!!」
娘を焼き殺された父親のような心持ちだった。
最後に一発、全身の怒りという怒りを凝縮した渾身の拳を叩き込む。
「カッ……ハッ……」
最後にビクンビクンと身体を痙攣させ、坂東は蛙のように床に倒れ伏した。
意識を失った坂東に向け、俺は声を荒らげた。
「俺がこの温泉作るのにどんだけ苦労したと思ってんだ!!」
その数分後、憲兵が到着。
ボロボロになったふたりを見て、憲兵が言葉を失った事は言うまでもない。
龍殺しなのに思ったより強くなくね?
そう思われた方が多いはず。
ちゃんとした理由付けがあるのでご安心を(自らハードルを上げて爆死するフラグ)
ブクマ登録、下の評価などよろしくお願いします。
作者の心が夢幻の世界に飛び立ちそうになるくらい喜びます。

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