主体性のある国家へ
-国権・国益・国民の財産と生命をどう守るか
アイアイアイ 2003.4月号
-国権・国益・国民の財産と生命をどう守るか
アイアイアイ 2003.4月号
衆議院議員 小池百合子氏 VS 元陸上自衛隊中部方面総監 松島悠佐氏 危機に対して最悪の場合を考える 松島 議員は地元が兵庫県ということで、在任中はお世話になりました。防衛問題に関わる我々としては、たいへん心強く思っております。 小池 伊丹基地は私の事務所から車で3分ほどですので、いまでも隊員をはじめOBの皆様ともご近所付き合いをさせていただいています。近年は女性隊員も増えてきており、彼女たちを励ましたいという思いもあり、しばしば伺っています。 松島 議員は、学生時代にエジプトに留学されていた関係で、国際情勢にお詳しいようですが…。 小池 19歳で平和な日本から中東地域のカイロ大学へ留学しました。1972年の第4次中東戦争ではその渦中におりました。カイロにはアメリカのキッシンジャー氏、フランスやドイツの大統領、イギリス首相などがしょっちゅう訪れ、さらに当時のソ連が何万人規模で軍事顧問団を送ったりと、ダイナミックな国際政治が目の前で展開されていました。中東和平を謳いながら、その帰りには兵器を売っていく(笑い)。まさに国際政治の現実を見てきたという原体験ができたせいか、私は国家意識が非常に強い。生きた政治を勉強できたのが留学の最大の収穫です。 松島 すばらしい経験ですね。私も東西対立の最中、3年ほど防衛駐在官で西ドイツにいましたので、現場での臨場感が違うということを実感しています。あちらでは戦争を現実として考えて物事が動く。それに比べ、当時もいまも、我が国は”戦争はない“と思っている。いまこれだけ北朝鮮などの問題が起こっても、あまり脅威を感じていない。 小池 エジプトでは、テレビはまず国際ニュースに始まり、次がローカルニュースなんです。日本はまず「桜が咲きました」といった平和そのもののニュースから。平和はいつまでも享受したいですが、それは相手のある話です。日本だけが戦争しないと誓っても、必ずしも他国はそう考えてはいませんよね。危機に対しては最悪の場合を考えて備えるのは当然です。法律的な議論や有事法制には、巻き込まれ論がありますね。体制を整えると、有事に巻き込まれるという妙な論法が、私には解せない。巻き込まれるか否かの問題ではなく、自らをどうやって守るかの話です。 松島 私は自衛隊に長くおり、安全保障の現場で、国の防衛、いわゆる国権、国益、国民の財産と生命をどう守るかといったとき、これは自分たちがやらなければと考えていました。ただ戦後はアメリカの占領政策で、日本の防衛をアメリカにゆだねてしまった結果、主体性を失い、日本全体が有事にはアメリカが守ってくれるという感覚になっています。 小池 備えのない国なんて世界中にありません。日本は話せばわかるといいますが、相手の国益にそぐわないときは、無理なのです。予防外交でもその背景に力を持っているか否かで、意味が全く違います。結局、どこかでアメリカに依存するあまり、腰を据えてやっていない。それでいてアメリカを批判する。 松島 全部おんぶしているわりには、アメリカが姿勢を整えると、アメリカ一人でやっているという。本当に誰の国なのかと思ってしまいます。 小池 日本はいつしか主体的に考えることを放棄してしまった。思考停止ですね。若手議員で「真の安全保障を考える会」を立ち上げましたが、そのネーミングの際に、私は「主体性ある」としたかったのですが「主体思想」チュチェになってしまうので、あきらめました。もっと言えば、主体性のない国家なんて、国会の態を成さないと考えます。 イスラムから世界を見れば 松島 一つお聞きしたいのは、中東、アラブの社会は、日本人にとって、よく判らないところがあります。少し、アラブのことを教えていただければ…。 小池 イスラム教、ユダヤ教、キリスト教のいずれにも通じ、逆に、宗教面で日本と何が違うかというと、唯一神か八百万の神かです。日本人は正月にお宮に初詣に行って、結婚式はキリスト教会で、あの世に行くときは南無阿弥陀仏と、まさに八百万の世界です。これはイスラムの人からすれば論外です。宗教が混在していること自体が悪なのです。こうした日本人的な鷹揚さを皆が持っていれば、世界は平和ではないかとさえ思いますね。イスラムの人と接するときは、その人たちにとって最善不変なのは”アラーの神“なのだと頭に入れておかないと、論争しても論争にならないのです。いま世界の人口が60億人強。イスラム教徒が推定15億人、4人に1人がイスラム教徒です。国連の予測では、2050年には世界の人口は100億人、ほぼ2倍の人口になります。じゃあイスラム教徒も今の倍率かというと、そうではない。出生率からいって、4,50億人になる可能性があります。物事は目の前にあることと、大きな流れから見ることの2つが必要ですが、大きな流れでいうと、先進国はこれから人口縮小、イスラムは人口爆発。この図式を頭に描いておけば、今後の世界が見えます。 松島 宗教の争いは、妥協がないから、行きつくところまで行く。これが日本人の感覚ではなかなか判らないところがありますね。 小池 世界地図でイスラム諸国の分布と天然資源の分布を見ると、これはバチッと重なります。イラク問題では、欧州の主要国の足並みが前の湾岸戦争の時とは違って揃っていない。これはアメリカ一辺倒の流れに歯止めをかけたいヨーロッパ諸国の思惑がありますが、個々に見ていくと、各国の国益、利権が絡んでの動きです。単に戦争か、平和かの単純な図式ではなく、中身はドロドロしています。日本はそこを避けてしまう。かたや、中東に石油の88%も依存して「中東地区は危ないから分散して、依存度を下げましょう」といっているのに、現実は上がっている。省資源国日本とすれば、こんな時こそイラク問題でどう立ち振る舞うべきか、日本にとってどうなのか、もっと真剣に考えるべきです。 松島 アメリカが武力に訴えているのにフランスやドイツは反対している。しかし、武力行使がいけないといっているのではなく、各国の国益を考えてしのぎを削っているのに、そのあたりのことを理解せずに、フランスやドイツも反対しているから、日本もアメリカとつるむ必要はないとか、短絡的理論になっているような気がします。 小池 先回の湾岸戦争のときは、冷戦構造が崩れるか否かの時と相前後して起こったわけですが、当時の状況は東西ドイツの合併、ソビエト連邦の崩壊と激動が続きました。現在のヨーロッパの環境は、すでにソ連の脅威が急激に低下し、ドイツは東側の左翼社会主義政権と合体したことで、いきなり社会主義者が2000万人も増えて、国内選挙事情も変わった。シュレーダー首相も選挙民受けする政策、イラクへの武力行使反対で勝利を収めたわけです。各国の国内事情があるわけです。一方、極東の日本になると、軍事力増強の中国が控えている、北朝鮮が核開発を進めている。ヨーロッパの環境と日本の環境はまったく違うわけです。まして日本は専守防衛だと言い続けていますから、一発ズドンとやられない限りこちらからはできない。その上で日本をどうやって守るかというと、アメリカにお願いするしかない。というより選択肢がない。 松島 アメリカに頼るという選択をして半世紀、いまになって、例えばミサイル防衛でもテポドンが飛んでやっと、自前で持たなければと自覚するようになった。偵察衛星でもそうです。しかし、有効な手段を整えるには、時間も金もかかる。本来はもっと前から考えなければならなかったと思います。 小池 これから文字通り自らの努力で積み上げていかなければ、非常に無責任なことになると思います。ワシントンは世界地図をベースにして物事を考えています。世界の唯一の警察官、ユニラテリズムといいますが、世界に対してあるときは過剰すぎるぐらいの責任感を持って真剣に討議しています。日本の場合はそうしたことは数えるほどしかない。限りなくドメスティックですね。 松島 にほんはたまたま平和を維持してこれたが、実際は中国、台湾や朝鮮半島など周辺を見れば危険なことがいっぱい。若手議員の安全保障会合では、わが国もアメリカに依存する体制ではなく、主体的に自分たちの防衛を考えて必要なら軍隊も保持するという、独立国として真っ当な考え方が出てくる気配になっていますか。 小池 いえ、そうありたいのですが、残念ながらまだまだですね。 国を変えるのは政治家の仕事 松島 北朝鮮が拉致問題を認めたことで、報道も少しまともに考えるようになってきました。私も日米安保、自衛隊は憲法違反だといわれる時代からいろんなことをいっていましたが、政治家が取り合ってくれない。結局、国を変えるのは政治家です。 小池 超党派で「このままで日本は本当にいいのか」といった共通の思いを抱いて勉強しておりまして、目的は集団的自衛権の解釈を変更しようというものです。これは法案化すると紙切れ一枚でできます。もしくは総理大臣が予算委員会などの場で「変えます」と宣言すればいい。それが議事録に残るだけでも可能です。 松島 もともと政府見解という、立法処置でもなんでもないものに縛られている。いまおっしゃったことは手続きも簡単だし…。 小池 これがまさに政治決断です。もっと本質的、本筋でいえば憲法改正です。解釈変更だけでは、別の総理大臣が出て「また、変えます」といったら終わりです。私は次の総選挙は消費税の利率を巡る議論よりも、むしろ憲法を改正するか、しないか、”どう変えるか“という大きなテーマを打ち出すべきだと思います。 松島 そうなってほしいですね。例えば自衛隊の基になっている自衛隊法。これは政府見解や閣議決定というあまり強固でないものを基盤にできあがっています。ですから、政府見解が変わると自衛隊の行動規範がすぐ変わります。そうではなく、憲法できちんと決めて、それに則っていくというようにすることが望ましいと、ずーっと思っていました。 小池 基本的なことはずっと避け続けてきました。言葉のレトリックでよっぽど危ないのに。情緒論になりますが、いまの日本は1億人が自信を失っている。揺るぎない経済大国なのに、前向きのエネルギーが出ない。その最大の理由は、ご都合主義で読み方を変える憲法問題に帰着します。21世紀という世界の大きな流れの中で、日本という国がしっかりと礎を降ろして発展していくためには、今こそ真正面の議論に取り組むべきだと思っています。 松島 本当にそうですね。議員のこれからの活躍を期待しております。本日はお忙しいところありがとうございました。 |