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HDDがついに10TB到達!
Seagate「ST10000NM0016」の実力を検証してみた
text by 石川ひさよし
2016年7月19日 00:01
今年4月、ハードディスクドライブ(HDD)がついに1台10TB時代突入した。
思えば1TB品の登場は2007年3月で、9年で10倍になったことになる。また、キリの良い「10TB」を待っていた方も多いだろう。
そこで今回、いち早く登場した10TB HDDのひとつ、Seagate「Enterprise Capacity 3.5 HDD (Helium)」を例に、その性能を検証してみた。検証にお借りしたモデルは店頭初登場のモデルとなった ST10000NM0016だ。
なお、あまりに大容量なHDDは、「もしデータが破損したら……」という不安もよぎるが、このHDDはエンタープライズ向けの超高品質モデル。信頼性を示すMTBF(平均故障間隔)も250万時間と非常に長く、高信頼がウリのNAS向けモデルと比べてさえ2.5倍にもなる。また、ヘリウム封入やそれを支える筐体技術など、最新技術も盛り込まれており、信頼性や「最新スペック」といった点でこうした最先端のドライブを選ぶのも「アリ」のはず。NASのようにベイ数が少ない中で拡張する場合も有効だろう。
実際に購入を検討している方、そして今はまだ手が届かないが……という方にとっても、最新技術として参考にしていただければ幸いだ。
新世代大容量HDDで導入された「ヘリウム充填技術」
まずはスペックの面からST10000NM0016の技術に迫ってみよう。
最初はプレスリリースでも触れられた「ヘリウム充填技術」。これは、HDDの筐体の中の気体を、従来の「純粋な空気」(Seagate)から、ヘリウムに切り換えたことを指している。ヘリウムは、元素周期表で水素の次の順にあるように、非常に小さな元素であり、その分子も軽い。これをHDDの中に充填することで、HDD内部に格納される記録媒体「プラッタ」が回転する際の空気抵抗を減らすことができる。空気抵抗が減るとどういったメリットが生まれるかと言うと、まず回転の際、プラッタのブレが抑えられるほか、「プラッタとプラッタの間に置かれていた乱流防止用のセパレータ(隔壁)が不要となる」(Seagate)という。そしてこれらの結果、プラッタ間の間隔を狭くでき、限られたサイズ内でのプラッタ枚数が増加、大容量化が実現する。10TBという大容量を実現できた最大の要因がこのヘリウム充填技術にあるのだ。
カバー部分に目を向けると、従来のHDDにあったカバー固定のためのネジがなく、代わりに溶接で生じる膨らみが確認できる。これはヘリウムという分子構造の小さな気体を長期間、確実に封じ込めるためだろう。このように、とても高い工作精度で製造されているのがST10000NM0016の特徴だ。これだけ構造が異なると、まだまだ高価であることにも納得できる。
また、このようなヘリウム充填のための構造と重量感、そして充填されたヘリウムによって乱流・面ブレ、空気抵抗が抑えられることは、理論上、動作音や振動、発熱の抑制にも違いが生じるはずだ。従来型HDDでもベアリングなどの技術によって軸ブレや動作音を抑えてきたわけだが、ヘリウム充填技術を用いた新世代HDDは一気に飛躍する。
「ヘリウム充填」でプラッタが1枚増加
さて、ヘリウム充填技術によって実現したプラッタ枚数の増加に迫ってみよう。まずは公表されているスペックを断片的なデータからまとめてみた。
シリーズ | Helium | Archive | NAS | Desktop | Enterprise |
---|---|---|---|---|---|
型番 | ST10000NM0016 | ST8000AS0002 | ST8000VN0002 | ST8000DM002 | ST8000NM0045 |
容量 | 10TB | 8TB | 8TB | 8TB | 8TB |
キャッシュ | 256MB | 128MB | 256MB | 256MB | 256MB |
プラッタ枚数 | 7枚 | N/A | N/A | 6枚 | N/A |
回転数 | 7200rpm | N/A | N/A | N/A | 7200rpm |
最大転送速度(Sustain) | 254MB/s | 190MB/s | 216MB/s | 220MB/s | 237MB/s |
稼働時電力 | 最大8W | 定格7.5W | 平均9W | 平均9W | 10W以下 |
アイドル時電力 | 平均4.5W | 平均5W | 平均7.2W | 平均7.2W | 平均9W |
MTBF | 250万時間 | 80万時間 | 100万時間 | N/A | 200万時間 |
※プレスリリースおよびPDF版仕様書に準拠 |
プラッタの枚数は、ST10000NM0016が7枚(プレスリリースより)、8TBモデルで唯一公表されていたDesktop HDD「ST8000DM002」では6枚だ。ヘリウム充填技術によって増えたのは1枚。しかしたった1枚と思ってはいけない。26mm程度の厚みの3.5インチHDDのなかでプラッタを1枚増やすということは大きな技術革新である。
では、プラッタあたりの容量にも注目してみよう。ST10000NM0016は10TB/7枚だから1.42TB、ST8000DM002は8TB/6枚だから1.33TBだ。こうして見ると、プラッタあたりの容量に関しては、そこまで飛躍的に向上しているわけではないようだ。ST8000DM002は従来型の記録技術を用いていたから、おそらくST10000NM0016も同様の技術の延長線上にあるのではないだろうか。
そのほかのスペックでポイントとなるのは最大転送速度とMTBF(平均故障間隔)だろうか。まず転送速度に関してだが、ST10000NM0016の「254MB/s」は容量8TBの各モデルよりも速い。そして、キャッシュ容量が同じEnterprise Capacityシリーズ(Heliumが付かない)8TBモデル「ST8000NM0045」の転送速度は237MB/s……つまり両者の差である17MB/sの向上はプラッタの高密度化やヘッドの動作速度といった部分で実現していると思われる。
次にMTBF。ここは用途によっても大きく異なるので、同じEnterprise Capacityシリーズで比較すると、ST10000NM0016は250万時間、ST8000NM0045は200万時間と、ST10000NM0016のうほうが50万時間ほど高耐久だ。ST10000NM0016を購入される方の多くが、大容量の、大切なデータの保存先として検討中であることだろう。この点で、むしろ従来の製品よりも高耐久であることは安心材料だ。本来、プラッタ1枚分部品が増えているため、MTBFは不利なハズだが、ヘリウム充填を可能とした高精度の構造がそれをカバー、実現できたのだろうと思われる。
転送速度も向上、ヘリウムは静か
それではST10000NM0016を実際に動かし、動作を見てみよう。
まずは容量から。
ST10000NM0016のOS上から見た容量は10,000,695,027,760バイト(9.09GB)だ。もちろん動作させるためには64bitのUEFIと、64bitのOS、WindowsではパーティションテーブルをMBRではなくGPTに指定する必要がある。
気になるパフォーマンスはCrystalDiskMark 5.1.2 x64で計測してみた。Archive HDDシリーズST8000AS0002のようにSMR技術を用いた製品例もあるので、連続で5回計測した結果を紹介しよう。
計測結果を見てお分かりのとおり、転送速度はブレがなく安定している。
この点からもおそらくSMR技術は採用されていないものと考えられる。速度に関しては、シーケンシャルリードが210MB/s前後、同ライトが200MB/s前後といったところ。公称値とは若干大きな開きがある結果だが、HDDとして見て決して悪いパフォーマンスではない。
また、ランダムに関しても、4K Q32T1リードが2.5MB/s、同ライトが2.2MB/s。こちらは平均的なHDDの4K転送速度といったところだろうか。
最後に動作音や振動に関してもコメントしておこう。
まず動作音だが、通常、「ヘリウム」と言えば吸うと声が高くなることで知られるが、ST10000NM0016が甲高い音を立てるかというとそうではない。
むしろ低い音に聞こえる。基本的にヘリウムが密閉されているため、モーターやプラッタの回転音やヘッドのシーク音は、きょう体を通じて振動として伝わる。そのため、ヘリウムが音の点に影響を与えることはほとんどないのだろう。音量は全体的に小さく、これは振動の少なさを意味していると思われる。シーク音は確かにモーターの音よりも大きく聞こえるが、これもかなり静か。やはり密閉されることで音漏れが小さいのだろうと考えられる。もっとも、昨今のHDDならばそこまで振動が大きいわけではないので、こうした音の違いで推測するしかないレベルの差だ。
「10TB HDD」は最新技術満載で、品質も最上級
このように、ST10000NM0016は新世代のHDD技術を取り入れ、大容量化を実現した製品だ。そしてこの技術によって、転送速度も向上を見せ、動作音も小さくなっている。耐久性についても、ただでさえ高耐久な「Enterprise Capacity」シリーズを超える超高耐久を誇っている。
本来は「企業内のニアライン向け製品」という位置づけの「ST10000NM0016」だが、秋葉原やオンライン通販では既に購入可能。価格は7万円台中盤で、決して安価な製品ではないが、「10TB」というキリのいい数字と、品質の高さ、HDDとしてのスペックの高さを考えると、用途によっては十分「アリ」な製品だろう。
ちなみに、「10TB」というと25GBのブルーレイに置き換えると400本分、次世代ブルーレイの4K HEVCは100GBメディアで約2時間なので100本分=約200時間、32GBのSDカードなら312枚分、データサイズが公表されているニコンD5のTIFFデータが1枚27.4MB前後なので約364,963枚分といった計算になる。
いずれにせよ、普通に使えばかなり長期間データを蓄積し続けられるだろうし、複数使えば2台20TB、3台30TB、4台40TB、5台50TB……とキリ良く拡張できる。興味をお持ちの方は、是非ST10000NM0016にチャレンジしてみてほしい。
[制作協力:Seagate]