ついに2016年からドイツでも、日本のサスケが『Ninja Warrior Germany(ニンジャ・ウォーリアー・ジャーマニー)』としてテレビ放送されるようになりました。これまでアメリカ版の『Ninja Warrior』がドイツでそのまま放送されることはありましたが、今回からはドイツ人が運営します。
一見、日本発の商品が海外に直接輸出され受け入れられているように見えます。しかし、日本発の企画を使った番組がドイツでも放送されるようになった経緯をよく観察してみると、日本からドイツへ直接流入しているわけではない現実が見えてきます。そこで見えてくるのは、一旦アメリカを経由するという情報伝達のあり方です。
この世界における情報の流れを、SASUKEと寿司の海外展開を基に見ていきます。
サスケからニンジャ・ウォーリアーへ
アメリカでは当初、日本のサスケを字幕付きでそのまま放送していたようですが、人気が出たために、企画自体の権利を買って、アメリカ人が参加するアメリカ版を作ることになったようです。これが『American Ninja Warrior(アメリカン・ニンジャ・ウォーリアー)』です。
参照記事:Americans latch onto G4's intense 'Ninja Warrior' - USATODAY.com
そしてアメリカで人気が出たために今度はドイツでもドイツ版が作られるようになりました。
興味深い点は、日本からの直輸入ではなく、アメリカでの成功というワンクッションがあってからドイツに輸出されているという点です。それは次の3点から読み取れます。
番組名
ドイツ版の番組名は、「Sasuke」ではなく、アメリカ人によるネーミングである「Ninja Warrior」を受け継いでいます。アメリカ版とドイツ版の間のこの類似性は明白です。
時系列
ネーミングの時点で明白ですが、アメリカ版での成功を受けてドイツ版が制作されたという事実は各国での放送年の差から十分推測できます。(下図参照)
アメリカ版が与えた印象の強さ
ドイツ版の挑戦者の中にも、アメリカに滞在していたときに見たことがあり、参加したいと思っていたという人もいました。*(一部の)ドイツ人の間でもやはりアメリカ版の印象が強いのではないかと思われます。恐らく、番組制作者もアメリカでの人気を意識しているのではないでしょうか。
*第一回放送より
もし日本で人気があるという事実だけであれば、企画内容が面白いと思われたとしても、ドイツ版制作へは躊躇があったのではないでしょうか。アメリカ版の成功が、商業的観点からの不安をドイツ人から取り除いたのではないかと思われます。
寿司からスシ、そしてズシ*へ
同じようにアメリカを一旦通して日本の物がドイツに来たと思われる例として、寿司が挙げられます。
*ドイツ語ではSushiはスシではなく、ズシと発音されます。ですので以下、ドイツでの「寿司」について述べる場合は「ズシ」と表記します。
時系列に沿って各国の寿司の誕生・普及時期*を見てみることで、日本→アメリカ→イギリス→ドイツというルートを取って寿司がドイツにまで到達したことが推測できます。
*ここでは、回転ずし店の開店をもって普及の始まりと仮定しています
そのため、簡単に寿司の普及の経緯を見ていくことにします。
寿司からスシへ in USA
アメリカでは1970年代にKawafukuというお店がLAのリトルトーキョー(日本人街)に誕生したのを始まりとして、次第に日系人社会の外でもスシが食べられるようになり、1980年代から90年代にかけて爆発的な普及を見たようです。
スシからスシへ in UK
イギリスでは1980年代からスシがロンドン・シティ街の立食パーティで少しづつ食べられるようになり、1994年に最初の回転寿司が出来ました。
参照記事:Sushi: Britain's new national dish | Features | Lifestyle | The Independent
スシからズシへ in DE
ドイツはというと、ロンドンに遅れること数年、1997年にようやく回転ずしが現れるようになりました。回転ずし創始者は銀行関係者で、ロンドンで見た回転ずしの店からドイツで開店しようと考えたそうです。
*(西)ドイツでの寿司の始まりは不明
**東ドイツでは1960年代に寿司レストランがありました。ただこれは映画化されたほど特殊な例で、東ドイツでは唯一の日本食料理屋でした。例外的な存在とみなすことが出来るため、本記事では考慮に入れません。
ただこの話を映画化した作品『Sushi in Suhl(ズールの寿司)』は、日本のことなど全く知らない東ドイツ人が箸の使い方を始めとして見よう見まねで日本文化を楽しもうとしている姿が描かれており、おススメです。(DVD・Blue-rayは日本語字幕無しのようなので鑑賞の際は気を付けてください)
参照記事:
①Restaurant Waffenschmied: Sushi in Suhl DDR - SPIEGEL ONLINE
②Sushi in Suhl - so war es wirklich - Freie Presse
以上述べたアメリカ、イギリス、ドイツにおける寿司レストランの開店と普及の時間的流れを図に表してみると以下の通りになります。
時系列で見ても、英語圏で人気が出たことを受けてドイツでも寿司が普及したことが推測されます。
文化・情報のハブとしてのアメリカ市場
英語という国際言語とアメリカ(・イギリス)圏の文化が持つ求心力によって、日本発の文化や商品であっても、一旦はアメリカを経由してから海外に拡散していっていると言えるのではないでしょうか。
ではそれは一体何を意味しているのでしょうか。
それは、アメリカという市場が単なる巨大市場という規模の面だけではなく、商品や文化を拡散させるというハブ機能ゆえに今なお極めて重要であるということを指し示しています。
*アメリカ/英語の重要性は認められるものの、英語/アメリカ経由の情報に頼ってしまっていることは多くの問題を秘めています。このことについて詳しくは「【第2外国語を学ぶ4つの意義】英語だけで世界で活躍できる?」という記事で述べております。
例えばPokemon Goも、日本よりも先にアメリカやオーストラリア、ニュージーランドといった英語圏で販売が開始され、そこでの成功がドイツメディアでも大きく取り上げられました。これがまた前評判を高めるという宣伝効果をドイツでもっていたことは否定できません。
このように一般的に市場規模の面で中国がアメリカを抜くとしても、情報のハブとしての機能ゆえにアメリカ市場は当分重要であり続ける考えられます。そのために、アメリカ市場は単なる市場としての価値以上のものを秘めており、この市場での成功がさらなる海外展開の成否に大きな影響をもっていることは確かです。
寿司もSASUKEもアメリカ市場で成功したからこそ、さらなる海外展開が容易になったと言えるのではないでしょうか。
他にも日本発の文化と欧米というテーマではこのような記事も書いております。