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ホーサクっ

ホッと一息、サクッと読める400字

『偉大なる平凡』サラリーマン物語

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平凡なサラリーマンだけには、なりたくなかった。マジメを絵に描いたような父親を見て、なんてつまらない人生だろうと思った。

普通の会社に就職し満員電車に揺られ40年。僕と弟の学費や、住宅ローンを支払い続ける生活。毎日くたくたになって帰ってくる。

缶ビールを飲みながらテレビで野球中継や、NHK大河ドラマを見るのが唯一の娯楽だった。休日は、資格の勉強か家族サービス。

そんな平凡なサラリーマンだけにはなりたくなかった。だから海外を放浪したり、登山したり、カヌーに乗ったりして過ごした。

大学を卒業すると小さな小さな編集プロダクションで働いた。〆切に追われる生活に嫌気がさし、半年で平凡な会社に転職した。

平凡な会社をなめていた僕は、平凡な会社でもたくさんの挫折を味わった。結婚にも失敗したし、出世をしたとも言えない。

父親は、定年してから、歌を習いはじめた。いつか、NHKのど自慢にでる!と。そんなのムリに決まってる、と誰もが言った。

10年が経った。

先日、一通の封筒が父親に届いた。セミプロとして認めるという知らせだった。僕は、心から、おめでとう、と父親に言った。

「まだまだ、これからが勝負だ」照れ笑いする父を見て平凡な人生も悪くないと思った。なんて、三連休も働く僕は思った。

(500字)