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◆都心の真ん中に巨大スタジアムを造ることの矛盾
だが、これ以上は下がりきらなかった。再検討推進室の幹部は「19万4500平方メートルは、スペック見直しでギリギリまで詰めて、最低限これくらいは必要だと出してきた数字だ」と述べ、こう訴えた。
「たとえば、ロンドンは東京と比べても敷地が広いが、東京は敷地が狭くスタンドの下に諸施設を押し込まないといけないので、延べ床面積が必要になる。必要な機能はどちらも同じだが、結果的にどこまでスタジアム本体に押し込まなければいけないかで、これだけ違いが出ている」
新国立競技場の敷地は約11万3000平方メートルで、ロンドン五輪の主会場の7割程度しかない。ロンドンでは広い敷地を生かし、駐車場やレストラン、チケットブースなど多くの関係諸室は、競技場本体とは別に設置されたという。
これに対し、都心の真ん中の明治神宮外苑に建設する新競技場は、周辺に敷地の余裕はない。地下を掘るなどして競技場本体に必要な機能を詰め込まざるを得なかった、というのだ。
この建設敷地には、旧国立競技場の敷地に加え、約200世帯が暮らす都営霞ケ丘アパートを取り壊した場合の敷地も含まれている。陸上のサブトラックも設けず、その分も競技場本体の敷地に組み込んだのに、それでもまだ足りないことになる。
考えてみると、敷地の問題は槇さんに当初から指摘され、伊東豊雄さんも、改修試案を公表した際に、コンペに参加した実体験から、問題点として述べていた。ここまで来て、新国立競技場の計画は明治神宮外苑地区に巨大スタジアムを造ることの矛盾を突きつけられた格好になった。
さらに、もう一つの問題は、1550億円はさらに膨らむ可能性があるということだった。1550億円は、2017年4月から10%に引き上げられることが決まっている消費税を8%で計算していた上、依然として続く建築物価の上昇を考えれば、将来的に金額が上昇する可能性は十分に考えられた。
特に、この日明らかにされたことだが、「五輪のリハーサルなどのために2020年1月までに完成させてほしい」というIOCの求めに応じ、完成目標が2020年4月から3カ月も前倒しされることになった(編集部注:今回発表された2案はいずれも、IOCの要請をさらに前倒しして、2019年11月を完成目標としている)。ただでさえ物価が上昇しており、ただでさえリミットが限られ突貫工事を迫られている状況で、さらに工期が短縮されれば、労働者や資材を集中的に投入する必要が生じ、建設費の高騰につながる可能性は否定できない。
建設費の上昇について、当局側は、「増税と物価上昇分は加味することになる」と認めた。
それ以外の事情で上昇の懸念がある場合は、「政府側が求めているスペックの方をダウンする」とし、1550億円から大幅に増加する可能性は否定した。
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本書は、これからまさに正念場を迎える新国立競技場建設についての問題提起であるとともに、森本さんの記者魂があふれて読みごたえあるノンフィクションでもあります。ご興味を持たれたかたはぜひご一読いただけると幸いです。
最終回・第4回は12月24日(木)に公開予定です。
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