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裁判員と負担 参加しやすい仕組みを

 暴力団の元組員ら2人が、組幹部に有利な審理をするよう裁判員に依頼や脅迫をしたとして起訴された。裁判員裁判が2009年に始まって以来、初めてのできごとだ。

     裁判員が安心して任務を全うできなければ、制度の根幹が揺らいでしまう。裁判所は再発の防止に努めなければならない。

     特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)系組幹部が殺人未遂罪などに問われ、福岡地裁小倉支部で行われていた裁判員裁判だ。被告らは今年5月、支部前の路上で裁判員2人に「あんたらの顔は覚えとるけね」「よろしくね」と声をかけた。

     裁判員は、任務が終了した後の平穏な生活まで脅かされかねないと恐怖心を抱いたのではないか。裁判は公開の法廷で行われ、傍聴は原則自由である。懸念されていた事態が起きてしまった。

     最高裁は事件を受け、一般来聴者と裁判員の接触を避けるため出入り口を区別し職員を付き添わせたり、接触した場合は刑事罰に問われ得ることを掲示や口頭で告知したりするよう全国の裁判所に通知した。

     警備の強化を含めた安全対策の徹底は欠かせない。ただし、反社会性の強い暴力団関係の事件では、安全対策だけでは不十分だろう。

     裁判員法には、裁判員に危害が加えられる恐れがある場合などは、裁判員裁判の対象から除外できる規定がある。この裁判について、裁判所は対象から除外し、裁判官だけの審理に切り替えた。現実的な判断だ。除外決定は全国で6件目になる。規定は厳格に運用されてきたが、暴力団関連事件ではより柔軟に活用することが必要だろう。

     身の安全にとどまらない。市民である裁判員にとって、人を裁くことの精神的な負担は重い。

     福島県で遺体の写真を見た裁判員が急性ストレス障害になり国家賠償訴訟を起こしたケースもある。経験者アンケートでは約8割の人が「心の負担を感じた」と回答している。

     特に、死刑判決に関わった裁判員の中には、長期間にわたり精神的な葛藤を抱える人もいる。元裁判官からは「長期的なケアをする必要がある」との指摘が出ている。最高裁は専門家による対面カウンセリングの機会を提供しているが、対応は限定的だ。裁判員の精神的負担について聞き取りを進めるなどして検証し、手厚い対策を考えるべきだ。

     裁判員裁判開始から7年がたった。裁判員候補者が裁判所の呼び出しに応じる出席率が低下し、昨年は7割を切った。辞退の申し出も6割を超える。裁判員が負担を感じず安心して参加できる仕組みを整えることが一層求められている。

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